約 1,100,817 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/919.html
back / next 七話 『間違えたんだからスルー進行で』 新たに実がなった。実っているのは五つの“バクバクの実” シエスタにそれらを採取させながら、ルイズは小屋へ戻る。机の上には分解されたショットシェル。 「バクバクの実ですか~どういうものなんですか?」 「錬金よ。ただし金属どころか生物無生物に関わらず、食べて作り変える能力」 「……土のメイジの方々が昏倒しそうな能力ですね」 「ギーシュ当たりが欲しがりそうな能力ではあるわね」 「何よりおなかがすかなくなるのがいいですねぇ」 土でも石でも何でも食べてその腹を満たすことができる、それは確かに飢えから逃れるには最良の能力といえた。 「でもダイアルを見ても条件はわからないですねぇ」 「まあ五つも手に入ったしいいんだけどね」 ルイズはじっとその実を見つめた。 じっと見つめる。 錬金の魔法を力技で実行するこの身の能力は、魔法を常に失敗するルイズには魅力的に映った。 だがしかしここに不文律がある。 『悪魔の実は二つは食べられない。食べれば体が破裂する』 実に手をかざしそのうちを覗き見る。 流れるのはかつて二つ以上を喰らったものの末路。 血しぶきを撒き散らしながら体の前面が裂け、胃が、腸が、肺が、心臓が、肝臓が、裂け目から外に飛び出している。 悪魔の実という名の寄生生物が同種に感じる免疫拒絶反応。 実から手を離し、ルイズはナイフを手に取った。 昼食の場、ルイズはそれを己の食事に放り込む。 ミョズニトニルンの能力を徹底活用して作り上げた希釈した悪魔の実のペースト。 己の未来を覚悟しつつも、ルイズはそれを混ぜ込んだスープをあおった。 いつもどおりうまい。 「ああああああがああああああ!」 直後、ルイズは大量の血を吐き出す。 ふくらみ血管の浮き出る腹部。 「ガボッ」 腹が裂け、臓腑が飛び出した。 結果から言えばルイズは助かった。一から十まで計画通りに。 食堂はまさに大惨事だった。 倒れる死に体の少女と腹から飛び出た臓物。 実のかけらを悪魔の木の樹液から作った溶液で希釈し効果を軽減し持続時間を延長。 あえて食堂で行うことで治療の水の魔法を得意とするメイジたちの前で爆散、治療への近道を用意する。 加えて魔法の拘束具を使って胴体を固定、飛び散りを軽減する。 初めからゼロだった少女にとって、すべてを失うことへの恐怖はなかった。 誤算は唯一つ、信じがたい痛みにショック死しかけたこと。 予想をはるかに上回る痛みは彼女にトラウマを刻み込む。“痛いのは怖い” この日からしばらくの間、恐怖で眠れなくなりシエスタかキュルケに添い寝を頼むようになるのだが、それはまた別の話。 某CMのチワワっぽくてたまらないと二人がとろけた笑顔を浮かべていたが、怖いから視界から外そう。 「それで原因はわかるかね?」 「魔法の失敗だと思います」 オールド・オスマンに取り調べられるも知らぬぞんぜぬを貫き通す。自分の爆発魔法が暴走したのだろう、と。 魔法により修復された腹部を撫でながら、ルイズは結果に満足していた。 実同士が起こす拒絶反応、免疫機能が起こすショックが水の魔法により整合させられている。 魔法という現象が起こす“こじ付けのつじつま合わせ” それが彼女を救うだろうという、ミョズニトニルンの知識から組み立てた“絶対当たる未来予想図” ベッドの中で付き添いのキュルケの胸に顔をうずめながら、ルイズは一人笑みを浮かべた。 ああ、やはりコレはいいものだ。なんて弾力があってやわらかいのか。 研究観察用の小屋の中、ルイズはシエスタにもたれながら古びたさび釘をかじっている。 鉄でできたそれがまるでクッキーのようにコリコリ音を立てる。 うまい、体に毒でしかないはずの酸化鉄まみれのさび釘が無性にうまい。 コレがバクバクの実の恩恵か、と驚きながらルイズはギーシュから決闘後に巻き上げた青銅製のバラの造花をかじりだした。 「本当に何でもだべれるんですねぇ」 「しかもおいしいのよこれが。とんでもないわ」 バラの造花をムシャムシャ平らげた後、傍らに積み上げられた鉄くずと残骸の山に目をやる。 その中から衛士のものだろうか、ポッキリへし折れた剣をかじりだす。 鞘ごとごりごり食べながら、ルイズは紅茶に手を伸ばした。 デルフリンガーは御満悦だった。 さびだらけの己をいきなり飲み込みだしたルイズに慌てふためきはしたが、なにやら暗いところでごちゃごちゃした後出て着てみれば自分は新品のようにピカピカになっていた。 研いでも落ちなかったさびや汚れは完全にきれいに落とされ、布を巻かれた古い柄はヴァリエール家の紋章が入った金銀の装飾つきのものに作り変えられている。 鞘にいたっては花をイメージしたらしい華美さにあふれるデザイン、中央のヴァリエール家の紋章がアクセントだ。 デルフリンガーは武器として使われなかった己のこれまでをきれいさっぱり忘れることにした。 主の新しい能力の何とすばらしいことか! デルフの目の前でルイズは剣を一本かじり終わった。 しばらくもごもごと口を動かした後、流し込むように紅茶を空ける。 近くの薬ビンのふたを開けてそこに何かを吐き出した。それはどろどろに溶けた赤錆。 赤錆をすべて吐き出した後、右手を口の中に突っ込んだ。 シエスタとデルフが驚く中、ルイズは口から一本の剣を鞘ごと抜き出していく。 明らかに鋼を後付された、青銅のバラをあしらった青い鞘のレイピア。 ギーシュのバラを使ったためか、デルフには魔法の力を感じ取れた。 「これギーシュは何と交換って言うかしらね?」 「杖にもなるんですよね? だとしたらかなりじゃないですか」 「……おでれーた。娘っこは世を席巻する彫金師になれるぜ」 錬金の授業の前、いつの間にか召喚した木の実から出てきた変なブタ、ということになっていたカツ丼をフレイムの上に乗せ、ルイズは着席する。場所はギーシュの隣。 「ギーシュ、いいものがあるんだけど」 「ルイズ、藪から棒になんだい?」 「いいからみなさいって」 布に包まれていたそれは、少なくともギーシュの人生において一二を争う美しさのレイピアであった。 その青銅のバラをあしらったレイピアに回りは一斉に息を呑む。 ギーシュは恐る恐るといった様子でそれを手に取った。 ―精神力が通る!― それはつまりコレの材料が数日前に巻き上げられた自分の杖であるということ。 そして何より杖の代わりになるということ。 「ルルルルルルルイズ! こここここれは一体!?」 「森の前に私の観察小屋があるでしょ? そこであんたのバラを使って作ってみたの。どう?」 「すすすすすばらしいよ! こんなに美しい剣を僕は見たことがない!」 「それは良かった。で、ギーシュ」 ずいっと前に出てレイピアを取り返す。 「これの代わりに何をくれる?」 「僕のヴェルダンデに宝石や鉱石を探させよう! 好きなだけもっていってくれるといい!」 「成立ね。じゃあ上げる」 ギーシュはレイピアをもらって、ルイズはさまざまな原石を大量にもらって御満悦だった。 その光景に目が行き過ぎたのか、ルイズが錬金の魔法はできないのだということは忘れ去られていた。 カツ丼はシエスタに餌をもらっていた。 学園内でイノシシになったりブタに戻ったりしていたせいか、いつの間にかカツ丼は『ルイズの召喚した実から生まれた』だの『ルイズの召喚した実を食った』だの言われるようになり、気がつけばルイズの使い魔扱いになっていた。 まあ一部当たっていないでもない。 木の実よりは体面も良かろうということで木の実の変わりに使い魔登録されたカツ丼は、ブタブタと餌をほおばっていた。 キュルケは自分の感情をもてあましていた。 妙に可愛らしい様子を見せたかと思えばいきなり黒くなるルイズ、その寝姿は顔の形が崩れるほど愛らしい。 そんな感想を同性に抱く自分に驚きつつ、キュルケはルイズを探す。 この感情をどうすればいいのか、考えながらたどり着き、ひとまず思考を変更する。 目の前でルイズが材木をかじるのを止めるべきかどうか。 変則的な錬金魔法、そんな明らかに間違った説明をしながら、ルイズはギーシュから受け取った宝石の原石をかじる。 少しの間もぐもぐ咀嚼したあと脇に吐き出すのは不純物のみ、直後卵形の純鉱石を吐き出す。 「ルイズ、これももしかしてサファイア?」 「サファイアの単結晶。土のメイジには金やプラチナにも勝る価値があるでしょうね」 「……反則じゃない?」 授業の合間にもルイズは何かをかじっている。 今かじっているのは貝殻。 壊れたダイアルを食べ、修復して吐き出す。 それを延々と繰り返していた。 「うあ、これ排撃(リジェクト)ダイアルのかけら? かけらだけ? ちえ~」 周りの生徒たちには偏食にしか見えなかったという。 悪魔の木の裏手、暗い森の中、手書きの的を設置したそれにルイズは相対している。 手の中には単発式拳銃。バクバクの実の能力で作り上げたオーバーテクノロジーの塊。 横のテーブルにシエスタが荷物を置いていく。内容は鉛、真鍮のインゴット、硫黄などの火薬の原料。 それらをすべて口の中に放り込み、しばし後に吐き出す。 吐き出されたそれは最も初期の金属薬莢弾。 各種鋳型や機材を用いなければならないそれらの製造過程を無理やりスキップして結果だけを導き出す、悪魔の実の能力。 「黒色火薬は弱いからいやなんだけどね~」 「無煙火薬、でしたっけ? そっちは駄目なんですか?」 「材料がわからないのよ」 「材料ですか?」 「あの獣の大筒のおまけで弾丸の情報も拾えたけど、“りゅうさん”とか“しょうさん”とか名前しかわからないの」 作り出した弾丸を銃に込め的に向かって構える。シエスタが後ろについて固定。 パァン、と軽いほおを張るような音、的の少し上側が粉々に吹き飛ぶ。 「思ったより反動がないわね」 「火薬が弱いって本当なんですね」 ふうむと銃を見薬莢を口に放り込む。ゴリゴリと咀嚼し再度銃弾を生成、装てんする。 もう一度構えて発射、今度は的の下方が破裂した。 「微妙な出来ね。やっぱりあれをやってみるか。実は十二番のやつね」 「用意しときます」 かさかさと小屋へ向かうシエスタを見やり、ルイズは銃をくわえて噛み砕いていく。 小屋の中でシエスタが実と鋼を用意していた。 机にはルイズの手記、『無機物への悪魔の実の適応方法』 「ところでルイズ、使い魔の品評会はどうするの?」 「カツ丼を出すわ」 「……あれはペットでしょ?」 「黙ってればわからないもの」 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3837.html
真人とルイズが部屋から出たとき、偶然にも同じタイミングで隣の部屋から出た者がいた。 燃えるような紅い髪。 情熱的な黒い肌。 胸元の開いたブラウスから、ルイズとは比べ物にならないほどのご立派な二つの果実が君臨していた。 そしてこちらに気づいてルイズと目が合うと、にやっとした笑顔を向けてきた。 「おはよう。ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 ルイズは、不機嫌な感情を言葉に含みながら挨拶を返した。 「この人があなたの使い魔なのね」 「そうよ。なんか文句ある?」 ルイズは相変わらずムスッとした態度で答えるが、キュルケはお構いなしに真人を頭かつま先までじっくり観察していた。 「ちょ、ちょっと何よ? 人の使い魔をじろじろ見ないでくれる? ってあんたも見せつけるようなポーズとらない!」 ルイズはキュルケに注意を促しながら、ふっ! ふっ! と肉体を強調するような暑苦しいポーズをとっていた真人をやめさせた。 「あなた……えぇと……」 「井ノ原 真人。真人でいいぜ」 「そうだったわね。私はキュルケ・ツェルプストー。キュルケでいいわよ」 「おう。よろしくな。キュルケ」 真人とキュルケはお互い自己紹介をしたあと、握手を交わした。 しかし、ルイズはそんなようすをどこか面白くなさそうに見ていた。 「ほらっ! 二人とも! さっさと行かないと、朝食に遅れるわよ」 そう言って一歩踏み出そうしたルイズの目に、真っ赤な何かの顔面どアップが映る。 「ひやあぁっ!」 ルイズは素っ頓狂な声を上げながら、後ろに尻餅をつく。 「な、ななな―――」 「あぁ、その子は私の使い魔。フレイムっていうのよ」 キュルケはそう言うと、自分の使い魔のもとへ行き、頭を撫で回した。 「でっけートカゲだなぁ……放し飼いにしといて大丈夫なのか?」 見たこともない大きさのトカゲ(?) に思わず少し後ずさりする真人。 「平気よ。契約を交わした使い魔は主人には絶対忠実。あと、トカゲじゃなくて火トカゲ(サラマンダー)よ」 キュルケは勝ち誇ったかのような顔で続ける。 「見て。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「そりゃよかったわね」 起き上がったルイズが、キュルケとフレイムを忌々しそうに見つめる。 「あら、タバサ」 そんなルイズなぞどこ吹く風でいたキュルケが、すぐ目の前の曲がり角からひょっこり現れたタバサに気づいた。 「どこ行ってたの? もうすぐ朝食の時間よ」 こんな時間までどこにいたのか、キュルケは気になって尋ねた。 「シルフィードにエサをやりにいっていた」 「あぁ、そういえば、あなたの使い魔は風竜(ウインドドラゴン)だったわね」 キュルケの言葉に、タバサは肯定の相槌をうった。 「紹介するわ。私の友人のタバサよ」 キュルケはタバサの肩をガッチリと掴んで、体の向きを二人の正面に合わせた。 「……タバサ」 小さな声で呟くように自己紹介をすませた。 どうやら本人からのアピールタイムはこれだけらしい。 「ルイズよ」 「井ノ原 真人だ」 こうして四人で食堂へと行くことになった。 「うおー。すげー広いなぁ」 真人は食堂に着いたとたん、思わず感嘆した。 最初に目につくのは、広々とした部屋の先まで続く三列の長いテーブル。 ゆうに百人以上は座れるだろう長い列だ。 そしてその長いテーブルの上に乗っているのは、まるで高級レストランに出されるような、豪華な食事だった。 「ここは『アルヴィーズの食堂』よ」 口をぽかんと開けたまま驚いている真人に、ルイズがどこか嬉しげに語る。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 人差し指をピンと立てたまま説明を続ける。 「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの」 「へー」 「ホントならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生れないのよ。それをこの私がと・く・べ・に・取り計らってあげたんだからね。感謝しなさい」 偉そうに胸張るルイズ。 だが、他の三人はとっくに先のほうへ行っていた。 「ちょっと、無視しないでよ! とくにそこの使い魔! 主人をおいて行動しない!」 ルイズは声を少し荒げながら、三人の後を追った。 「……ねぇルイズ」 「なによ?」 タバサを挟んで二つ隣の席に座っているキュルケに、フォークをとめたルイズがジト目で返答した。 「彼、いくらなんでもかわいそうじゃない?」 キュルケはそう言いながら視線を斜め後ろの床に向ける。 そこには床の上で正座になって、一枚の皿に乗った一つのパンと対面している真人がいた。 「…………………………」 まるで屍のように動かない。 顔から窺えるのは生気のない白く剥かれた目と、死んだ魚のように開きっぱなし口。 「別に使い魔のしつけを他人に指摘される筋合いなんてないわ」 ルイズはフンと鼻をならしながらキュルケの進言と真人の惨状を無視した。 自分の食べる量を知らされた真人は、その瞬間から今まで、ずっとあの調子である。 豪勢な食事を目の前にして、空腹の自分はパン一つ。 その宣告は真人には些かショックが大きすぎたのだ。 しばらく経ったあと、ゆっくりと真人が立ち上がったかと思うと、なにげない調子でルイズに話しかけた。 「なぁルイズ」 「…なに?」 「おまえ、確か鳥を飼い始めてから鶏肉が食えなくなったんだよな。代わりに鶏モモ食ってやるな。ピーちゃんは元気か?」 そう言って料理に伸ばした真人の手が、無言でルイズに叩かれた。 「なぁ西園……じゃなった。タバサはキャベツを飼い始めてからサラダが食えなくなったんだよな。代わりに食ってやるな。キャベツマンは元気か?」 今度はタバサに目標を変え、手を伸ばそうとしたら、本人と目が合った。 まるでプロの殺し屋が放つような殺気を受けた真人は、腕がぶった斬られそうになる前に、慌てて腕を引っ込めた。 そのサラダがタバサの好物『ハシバミ草のサラダ』だったとは、このときの真人には知る由も無い。 「なぁキュルケ。この際モズクでもキムチでもなんでもいいから恵んで―――」 「あぁもう! 仕方ないわね! ほら、これあげるから黙ってなさい!」 自分の宿敵であるキュルケから物乞いをしそうになった真人に、ルイズは声に怒気を含めながら、彼の皿に鳥の皮を落とす。 「おぉ! サンキュ……肉は?」 「癖になるからダメ。言っとくけど、次にキュルケから物乞いしようとしたら、しばらくはご飯抜きにするから覚えておきなさい!」 真人は、うおおぉぉぉぉぉぉぉ! と叫びながら頭を抱え、自分への理不尽な待遇に落ち込んでいた。
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/473.html
autolink() ZM/03-T102 カード名:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:8000 ソウル:1 特徴:《魔法》・《虚無》 【永】このカードのバトル中、相手は『助太刀』を手札からプレイできない。 べ、別にね、会いたいからじゃないの、わざわざ行ってあげるだけ! レアリティ:TD illust.ヤマグチノボル・メディアファクトリー/ゼロの使い魔製作委員会 トライアルデッキにのみ収録された、運が良いと釘宮さんのサイン入りレアカード。 1コスト能力持ちの割にはパワーが高く、助太刀を無効化するため攻撃時に相手とのサイズ差を読みやすい。 そのため、パンプ後に相手を殴るとほぼ確実に倒せる…と言う点では強い。 とはいえ、封じるのは「助太刀」のみ。カウンターの付いているイベントは使えるので注意が必要。 ・関連ページ 「ルイズ」?
https://w.atwiki.jp/aniwikigalaxystar/pages/446.html
ギスヴァーグ撃破後にカラーオーブのダンジョン最深部にいる精霊を規定ターン以内に倒すと貰えるオーブと精霊のオーブのダンジョンのボス一覧。 ギスヴァーグ ほのおのオーブ(火の精霊を9-12ターン以内に倒す) みずのオーブ(水の精霊を9-12ターン以内に倒す) かぜのオーブ(風の精霊を9-12ターン以内に倒す) だいちのオーブ(地の精霊を9-12ターン以内に倒す) 上記4つのオーブを集めるとギスヴァーグのダンジョンへ行ける(全15階層) 最深部にいる「ギスヴァーグ」を15ターン以内に倒せば『ギスヴァーグの心』を入手。 マスタードラゴン せいじゅうのオーブ(火の精霊を1-8ターン以内に倒す) マスタードラゴンのダンジョンへ行ける(全7階層) 最深部にいる「マスタードラゴン」を30ターン以内に倒せば『マスタードラゴンの心』を入手。 てんかいじゅう ひかりのオーブ(光の精霊を1-8ターン以内に倒す) てんかいじゅうのダンジョンへ行ける(全15階層) 最深部にいる「てんかいじゅう」を15ターン以内に倒せば『てんかいじゅうの心』を入手。 わたぼう タイジュのオーブ(風の精霊を1-8ターン以内に倒す) わたぼうのダンジョンへ行ける(全7階層) 最深部にいる「わたぼう」を15ターン以内に倒せば『わたぼうの心』を入手。 ワルぼう マルタのオーブ(水の精霊を1-8ターン以内に倒す) ワルぼうのダンジョンへ行ける(全7階層) 最深部にいる「ワルぼう」を15ターン以内に倒せば『ワルぼうの心』を入手。 りゅうおう りゅうのオーブ(闇の精霊を9-12ターン以内に倒す) りゅうおうのダンジョンへ行ける(全7階層) 最深部にいる「りゅうおう」を15ターン以内に倒せば『りゅうおうの心』を入手。 デュラン じゃしんのオーブ(闇の精霊を1-8ターン以内に倒す) デュランのダンジョンへ行ける(全15階層) 最深部にいる「デュラン」を15ターン以内に倒せば『デュラン』を入手。 ゴールデンスライム メタルオーブ(光の精霊を9-12ターン以内に倒す) ゴールデンスライムのダンジョンへ行ける(全4階層) 最深部にいる「ゴールデンスライム」を倒せば『ゴールデンスライムの心』を入手。 馬車改造じいさん ばしゃのオーブ(地の精霊を1-8ターン以内に倒す) 馬車改造じいさんの住むダンジョンへ行ける(全7階層)最深部にいる「じいさん」と話すと馬車の積載量を+1してくれる(各馬車ともに16まで)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5881.html
前ページ次ページ零姫さまの使い魔 ギン、という鈍い金属音が洞窟内に響く。 とても少女の胸板とは思えない、恐ろしく硬い何かに、杖先が止められる感覚。 右手に伝わってくる痺れにより、男は我に返った。 眼前にあったのは、刃が半ばまで突き立った、山高帽の乗った大岩。 少女はいない。斬り飛ばした筈の右手首も無い。 ただ、羽を断たれた蝙蝠が一羽、足元に転がっていただけである。 「――たく 酷ェ事しやがるもんだ」 突如、真後ろから聞こえてきた呟きに、男が反射的に振り向く。 その眼前に、手の目の刺青がぴたりと添えられる。 「随分とえげつねぇ真似をしやがるじゃねえかッ! さあ! その化けの皮 すっかり引っぺがさせて貰うぜ!」 かざした右手に、手の目が神経を集中させる。 男の動きがダラリと止まり、右手から得物を落とす。 その、線の細い柔和な顔立ちが歪み、徐々に彫りの深いものへと変わっていく。 ここまでは彼女の予想通りであったが…… 「なッ!」 手の目が思わず声を上げる。 突如、顔と言わず手足と言わず、男の全身が大きく歪み、実体を失い始めたのだ。 魔法による変装を予想していた手の目にとって、この変化は予定外であった。 彼女が驚いている間にも、男の体は、どんどん背景と同化していき 最後には、一陣の風となって消え去った。 「これは…… 風? くそッ そういうことか!」 手の目は一声叫ぶと、城内へと踵を返した。 「あっしは手の目だ 見ての通り とんだドジを踏んじまったようだ 昨日 あの妙な作戦を提案された時点で あっしはワルドを【黒】と判断した そして その上で奴の策に乗った 奴が あっしの方を先に始末しにくるようだったら 罠にかかった振りをして返り討ちにする 逆に狙いがお嬢だった時には ふたりの後をつけ 修羅場に割って入るつもりだった フン! どうやらあっしの小賢しい策も 奴さんは先刻承知だったらしい なんとか無事でいてくれ お嬢!」 「新郎 子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド 汝は始祖ブリミルの名において この者を敬い 愛し そして妻とする事を誓いますか?」 「誓います」 礼拝堂の中にワルドの声が響く。 新郎新婦と媒酌人の、三名のみの結婚式。 その、人生を大きく左右する厳粛な儀式も、今のルイズの中では、どこか上滑りしていくのみだった。 「では 新婦 ラ・ヴァリエール公爵家三女 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 ウェールズの自分を呼ぶ声もまた、遠い世界のものと思える。 軽く頭をふった後、覚悟を決め、ルイズが顔を上げる。 ワルドを信じると決めた以上、すぐにでも行動に移らねばならなかった。 始祖ブリミルに誓いを立てた後では、何もかもが遅すぎるのだ。 「……汝は始祖ブリミルの名において この者を敬い 愛し そして妻とする事を誓いますか?」 「…………」 「新婦……?」 当の新婦の沈黙に対し、ウェールズが怪訝な声を掛ける。 初めは緊張によるものかと思っていたが、どうもルイズの様子がおかしい。 傍らにいたワルドもまた、ルイズに視線を向ける。 「ワルド…… この 右手の意味 あなたに分かる?」 緊張した面持ちで、ルイズがゆっくりと右手をかざす。 その掌には、何の意味があるのか、目の模様をあしらった刺青が描かれていた。 それを見た瞬間、ワルドが豹変する。 顔に見る見る内に朱が差し、直後、強烈な平手がルイズ目掛けて浴びせられた。 「きゃッ!」 「子爵! 貴殿は何を……!」 咄嗟にルイズに駆け寄ろうとしたウェールズを、ワルドが片手で制する。 「お下がりを 殿下 あそこに転がっているのは ルイズ・フランソワーズではありません」 「何だと!」 「おそらくは彼女の使い魔です 何の目的でルイズに化けたかは分かりませんが 右手の刺青を用いた先住魔法で 他人に幻覚を見せる事が出来ると聞いております」 先住、という禍々しい響きに、ウェールズは思わず目を見張り、二人を交互に見比べる。 状況は何一つ理解出来なかったが、先のルイズの怪しい態度を思えば、迂闊に動くことは出来なかった。 「全く驚いたな…… 貴様は確かに 港に向かっていた筈だ」 動かないルイズに対し、ワルドは油断無く杖を構えながら、言葉を繋ぐ。 「答えろ 本物のルイズはどうした あるいは既に船の中か?」 「……どうして」 「何だと?」 咄嗟の機転でウェールズの動きを封じたワルドだったが、そこで彼も異変に気付いた。 呆然と座り込み、涙を浮かべるルイズの姿は、とても手の目の変装とは思えなかった。 「何故あなたは 手の目の力を知っているの 私は手の目の能力を【芸】としか伝えていない…… それに 手の目はあなたの前では 一度も右手を開いていない 手の目の右手に刺青があるなんて あなたは知る由も無い筈なのに……」 「…………」 「いえ…… そうじゃないわ 何故 私が替え玉を使うなどと考えるの……? あなたが生涯の伴侶とすると誓った私が 始祖ブリミルの前で偽者を立てるなどと」 ルイズが右手に涙を落とす。 その掌の模様が、涙で徐々に滲み出す。 「……ただの 墨 か?」 「答えて ワルド! あなたは…… あなたは一体 何をしようとしているの」 堂内が静寂で満ちる。 しばしの間、俯いて視線を落としていたワルドだったが、 やがて、ぽつりと言葉を漏らした。 「その右手は 彼女の案かい?」 「…………」 「見事な推察ではあるが 愚かな行いだ 余計な詮索さえしなければ 主人は幸福でいられる筈だったのだから 彼女はやはり 使い魔としては失格だ」 「ワルド……?」 「真実なんて知るべきじゃ無かったんだよ 愛しいルイズ…… 君はただ 僕を信じ ただ僕を愛すれば良かった そうすれば 君は幸せで居られた 少なくとも…… 今よりはね」 要領を得ないワルドの独白。 いまだかつて見たことの無い、光の宿らぬワルドの視線に、ルイズがぞくりと震える。 鼓動が早鐘のように高鳴り、ルイズの体内で警鐘を響かせる。 「子爵殿…… これは……?」 「ウェールズ様! 駄目ッ! そいつは……」 ルイズが本能的に叫びを上げた刹那、ワルドが動く。 恐るべき軽やかさで身を翻すと、瞬時に詠唱を完成させ、その杖先でウェールズを一気に刺し貫いた。 「し 子爵…… お前 は 」 ワルドがゆっくりと杖を引き抜く、血泡を吹きながら、ウェールズは前方へと崩れ落ちた。 眼前で起こった信じがたい光景に、ルイズが目を見張る。 「ワ ワルド あなた……」 「……こういう事さ 真実を知って それが何になる? 全てを知ったところで 君は何一つ出来やしないだろう?」 「ワァルドォーッ!」 ルイズが杖を構える。その先を取って、ワルドが詠唱を完成させる。 直ちに発生した疾風の一撃が、ルイズを壁面へと容赦なく叩き付けられる。 「――そして君はここで死ぬ 残念だよ 愛しいルイズ 僕を疑いさえしければ 君は永久に幸せで居られた」 「ワ… ル ド……」 尚も反撃しようと、ルイズが震える手を杖へと伸ばす。 ワルドは先の光宿らぬ瞳のまま、冷酷に杖を向ける。 直後、 「待ちやがれッ!」 ――と、いう叫びと共に、礼拝堂の扉が押し開かれ、手の目が舞台へと飛び込んできた。 「まるでジル・ド・レイだな この変態野郎がッ!」 手の目の怒声に、ワルドが露骨に目を細める。 言葉の意味は分からずとも、手の目が碌でもない罵倒をしている事は見て取れた。 「貴様か…… 随分と余計な事をしてくれたものだ 貴様のせいで 俺は婚約者を殺さねばならなくなった この責任 お前の血で償ってもらおうか?」 「下衆めッ!」 手の目は一言で斬って落とすと、右手をかざしてゆっくりと近付く。 右手の刺青から、徐々に眩い閃光がこぼれだす。 ――が、 「無駄だ」 「……ッ! ぐっ」 直後、真横から飛んできた衝撃に、手の目は大きく弾き飛ばされ、石畳へと転がる。 かろうじて身を起こし、手の目が振り向いた視線の先には、もう一人のワルドの姿があった。 「……そいつが 先の手品の正体ってわけだ」 「ユビキタス・デル・ウィンデ…… 風は遍在する」 ワルドが尚も詠唱を重ねる。 更に現れた分身が合わせて四つ、室内の四隅へと散り、手の目を取り囲んだ。 「貴様がいかに幻覚で背景を歪ませようとも 俺は遍在の存在を知覚する事で 幻を打ち破る事が出来る そして 貴様が何処に姿を眩まそうとも 五つの刃からは逃れることは出来ん」 「ハッ」 手の目は一つ吐き捨てると、震える体に渇を入れて起き上がらせた。 「駄目…… 逃げて 手の目 スクウェアクラスのメイジが相手では あなたに勝ち目は」 「お嬢」 しばし、手の目はルイズの方を見つめていたが、やがて、不敵ににやりと笑った。 「なぁに もう何も心配する事は無ェ さっきので あっしには全部見えちまったからな」 「えっ?」 手の目は再びワルドへと向き直ると、左手で簪を引き抜いた。 少女の豊かな黒髪が、ふぁさりと肩まで下りる。 「成程 女芸人の旅の心得…… という訳か だが そんなチンケな髪飾り一つで どうやって現状を凌ごうと言うのだ?」 「手の目の刺青は伊達じゃねェ! こっちはもう すっかりお見通しなんだよ ワルド 王子様とお嬢の分 テメェにゃきっちり地獄を見て貰おうか!」 「幻惑は効かないと言った……!」 再び右手をかざした手の目に対し、ワルドが油断無く杖を振るおうとしたが その動きが、不意にピタリと止まった。 ルイズが驚愕する。 ワルドがみるみる内に青ざめていくのが、遠目にも分かる。 四方に配された遍在達も、皆、苦悶の表情を浮かべ、身動き一つとる事が出来ない。 「きッ…… キサ 貴様! なんと……何ということを!」 「どうした? 確かにこいつは幻覚さ ご自慢の五つの刃で ズタズタに切り裂いてみたらどうだ…… こんな風によ」 言いながら、手の目が左手の簪を首の前へと持って行き、勢い良く振るった。 勿論、それは仕草だけであり、刃は空を切ったのだけなのだが……。 「うっ うわあアァーッ!」 と、ワルドはまるで、自らの首が断たれたかのような叫び声を上げた。 「こいつはよ 因果応報ってやつさ アンタは大切な者をを裏切っちまったんだ 残念だがね 頚動脈を切られたくらいじゃあ 幻は消えやしないぞ だからよ……」 「ヒッ」 ワルドの呻きを無視して、手の目は無常にも、左手を顔の前へと持っていく。 「だからこうして…… 両目を潰し!」 「やッ」 「鼻を削ぎ落とし!」 「やめッ!」 「耳を落として!」 「やめろ やめろォ!」 「口を真一文字に切り裂いてだなァ!」 「やめろおォオオオオォ! やめてくれェエエエーッ!」 手の目の見せた幻覚を前に、遂にワルドが悲痛な叫びを上げた。 四方にいた遍在も、いつの間にか掻き消えている。 それほどまでに、ワルドは幻に心乱され、消耗していた。 ワルドが戦闘意欲を失ったと見ると、手の目は両手をだらりと下ろして 相変わらずの突き放した視線で、憔悴しきったその姿を睨み据えた。 暫くの間、ワルドは両肩で大きく息をしていたが やがて、顔を上げ、手の目をきっと睨み据えた。 その表情にルイズが驚きの声を漏らす。 力強く歯を喰いしばった下唇からは、行く筋もの血が滴り落ち。 大きく吊り上った両目は真っ赤に充血し、涙の後が頬を濡らしている。 こう迄も余裕の無いワルドの姿を、ルイズは見た事が無かった。 「キサマ 貴様ッ! 覚えていろッ キサマはいずれ この手で八つ裂きにしてくれる!」 何一つ余裕の無い、文字通りの捨て台詞を残すと、ワルドは中空へと飛び去った。 「ヘン 一昨日来やがれ 田吾作め」 手の目はワルドの背に餓鬼のような罵倒を浴びせた後、ふぅ、と大きく息をついた。 「立てるかい? お嬢」 「ええ ……でも 殿下が」 「ああ…… あっしが読み違えたばっかりに 可愛そうな事をしちまった だが まあ 遅かれ早かれって奴さ」 手の目の言葉は、どこまでも聞き捨てならないものだったが、ルイズは敢えて聞き流した。 それは、死に名誉を求める者と、生そのものが誇りである者 先が見えない者と、見えてしまう者との、決して交わらない価値観の問題であった。 「ねえ 手の目 あなたはさっき 何をやったの……?」 「全く 皮肉な話だがね」 回答を後回しにするかのように、手の目が謎解きを始める。 「ワルドは決して 本心からの悪党ではなかったのさ お嬢の前で 無理に悪党を気取ろうとした事によって 却ってあっしにゃあ 奴が守ろうとしていた本心が透けて見えたのさ もっとも そいつを黙って見過ごすほど あっしは優しい女じゃないがね」 言いながら、手の目ふらふらと歩き出す。 「ワルドの本心?」 「ああ 簪を引き抜いたのは 攻撃の為じゃねェ 髪を下ろして 少しでも外見を似せる為だったのさ」 やがて、手の目は先刻のワルドの位置へ立つと、何かを拾い上げ、ルイズ目掛けて放った。 「何? これ ペンダント……?」 「八つ裂きにしてやったのさ ……あいつの母親をね」 彼方から、金属音と爆発音、そして兵士達の咆哮が聞こえてくる。 やはりと言うべきか、おそらくは、ワルドがウェールズを仕留めた頃合を見計らい 総攻めを仕掛けてくる手筈になっていたのだろう。 「手の目…… これからどうするの?」 「さて あっしの方は 手品の種が尽きちまった 後は……」 「きゃっ! ちょ ちょっと 何すんのよ?」 ルイズの抗議も聞かず、手の目が容赦なく彼女の体をまさぐる。 やがて、手の目はルイズの懐から、目当ての物を引き抜いた。 「それ 姫殿下の下さった路銀」 「後はもう 友人の【芸】に期待するだけさ」 そういうと、手の目は金貨や宝石の束を、袋ごと中央へと投げ打った。 ――やがて、ぼごんという響きとともに地面が盛り上がり 謎の巨大生物が、もぐもぐとばかりに顔を出した。 「え! こいつって 確かギーシュの……」 「おうおう! 凄いねェ ヴェルダンデの旦那 本当にお嬢の いや お嬢が持ってる宝石の匂いだけで ここまで辿り着いちまうとは……!」 直後、ヴェルダンデの掘った穴の中から、いつもの面子が顔を見せる。 「はぁい! 恩を売りに来てやったわよ ヴァリエール ……って どうやら軽口を聞いている場合じゃない見たいね」 周囲の喧騒に対し、キョロキョロと室内を見渡しながら、キュルケが呟く。 「シルフィードを待たせてある」 タバサはそれだけ言うと、即座に穴の中へ顔を引っ込めた。 「とにかく 状況を説明している時間は無いわ 早く脱出を!」 「あら? お髭の子爵さまは?」 「……残念だが あっしの勘が当たっちまったよ」 「ちょ ちょっと待ったーッ!」 突然のギーシュの叫びに、三人の動きが止まる。 「差し迫った事態は確かに分かる だが この窮地を救った 僕等主従の活躍に対し 何か言うべきことがあるんじゃないのかい?」 ギーシュの空気を読まない発言に対し、手の目は面倒臭げな視線を向けたが やがて、山高帽の埃を払いながら、ぶっきらぼうに言い放った。 「悪いがこちとら素寒貧だ 給金は土竜の旦那から貰ってくんな」 前ページ次ページ零姫さまの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6274.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 五四 「それで、どうなったの?」 ルイズは君のほうに身を乗り出し、話の続きをうながす。 「ちいねえさまは無事だったんでしょうね? それに、ちいねえさまのご病気は治せたの? それとも、だめだったの?」 あせった様子で矢継ぎ早に質問を浴びせてくるルイズに君は、順を追って話すので落ち着くように、と告げる。 ラ・ヴァリエール公爵の屋敷での事件から、まる一日が経つ(技術点、体力点、強運点を最初の値に戻せ)。 馬を飛ばして魔法学院に戻った君は、ルイズの部屋で彼女とふたりきりになり、事の顛末を語り聞かせているのだ。 ルイズは、君と公爵夫人とのあいだでいさかいがあったことを知ると、眉を吊り上げ、 「あんたって人は、どうしてわたしの言いつけを守らないのよ! 母さまには逆らっちゃだめって、さんざん注意したでしょ!?」と怒り、 執事のジェロームの死を知らされると、驚きと悲しみに暮れる。 ルイズが生まれるずっと前からヴァリエール家に仕えていたジェロームは、平民とはいえ、彼女にとって家族同然の存在だったのだ。 君はふたたび、ルイズの実家でなにがあったのかを語りだす。 薬を服まされてからしばらくして、カトレアは眼を覚ました。 しきりに礼を述べる彼女に体の調子はどうだと尋ねると、気分はよくなったが、体内の病魔が去ったようには思えぬという答えが 返ってきたたため、君はがっくりと肩を落とした。 DOCの術をかけられたブリム苺の汁は、風大蛇の毒を消し、消えかかっていた彼女の生命の炎をふたたび燃え上がらせたが、その炎は 常人に較べるとずっと弱々しいままなのだ。 病を治せなかったうえに、厄介ごとに巻き込んでしまってすまない、御者や執事は自分の巻き添えになって死んでしまったのだ、 と詫びる君に、カトレアは 「いいえ、気にしないで。あなたは精一杯がんばってくださったのですから。あなたが責められるいわれはありませんわ」と言って、 優しく微笑んだ。 「でも、ジェロームも、オーギュストも、それにこの子たちも、もう戻ってこないのですね……」 カトレアはそう言うと、足元に横たわる仔犬の亡骸を抱き上げた。 怪物が部屋じゅうに振りまいた毒煙によって、彼女の飼っていた獣や鳥の大半が死んでしまったのだ。 生き残ったのは小熊や大亀など、大柄で頑丈な生き物ばかりだ。 ルイズと同じ鳶色の瞳に涙を湛えたカトレアに、君は慰めの言葉をかけた。 公爵夫人はすべての奉公人たちを玄関ホールに集めると、君の身の潔白が証明された、と居並ぶ一同に告げた。 ジェロームの命を奪ったのは、公爵を狙ってアルビオンから送られてきた刺客であり、曲者は公爵夫人みずからが討ち取った、と。 公爵夫人の説明は事実といささか異なるが、暗殺者がクロムウェルの≪使い魔≫である恐るべき大蛇であり、狙いは君の命だったと 正確なところを告げても、奉公人たちを混乱させ、いらぬ疑念を抱かせるだけだろう。 誤解の解けた君だが、客人として屋敷に長居をするつもりはなかった。 クロムウェルが君を危険視しているということは、『ご主人様』であるルイズも狙われているかもしれない。 窓が割れてずいぶんと風通しのよくなった客間で、君は急いで学院に戻らねばならぬ、と公爵夫人とカトレアに告げた。 公爵夫人は、射抜くような眼差しでしばらく君を見つめていたが、 「あなたに問いただしたいことは山ほどありますが、今はその時ではないようですね。いいでしょう、厩舎にお行きなさい。 いちばんの駿馬(しゅんめ)をお貸ししましょう。ルイズが可愛がっていた馬です。学院に戻り、主人であるルイズを守るのです」と言って、 部屋を出ていった。 あいかわらず冷たくつんけんとした態度だが、今朝のことを思えばずっと柔らかな物腰だと言えるだろう。 多少の信頼は得たと思ってよさそうだ。 カトレアは 「残念ですわ、あなたのお国のことや、学院でルイズがどうしているかをお聞きしたかったのに」と、 名残惜しそうにする。 君が、次に来るときはたっぷり話そうと言うと、彼女は顔を輝かせる。 「ふふっ、楽しみにしていますわ。今度はルイズも一緒にね」 そう言ったあと、表情を引き締め、君を見つめる。 「わたくしの可愛い妹、大切なルイズをどうかよろしくお願いいたしますわ。異国の勇敢なメイジ殿」 武器とマントを取り戻すと(幸いなことに、風大蛇に操られたジェロームは、それらを傷つけたり捨てたりはしなかった)、君は馬に跨り、 急ぎ学院を目指した。 君が借り受けた馬はたしかにすばらしいものであり、一昼夜に及ぶ、ほとんど不眠不休の速駆けにも耐え抜いてみせた。六六へ。 六六 「向こうでは大変だったのね」 君の話を聞き終えたルイズは、ぽつりと呟く。 今の彼女からは、普段の無鉄砲なほどの活力が感じられず、意気消沈のありさまだ。 「こっちは何も危険なことは起きなかったけど、主人の身を案じて大急ぎで学院に戻ってきた、その忠誠心は褒めてあげるわ。 ちいねえさまのご病気が治らなかったこと、それに、ジェロームたちのことは残念だったけど、あんたは務めを果たしてくれたわ。 ごくろうさま。今日はもう、ゆっくり休んでていいわよ」 ルイズはそう言って君をねぎらってくれるが、その表情は見るからに陰鬱なものだ。 彼女は君のかわりに、自分自身を責めているのかもしれない――君をラ・ヴァリエール家に送り出さなければ、執事も御者も死ぬことはなく、 姉が危険にさらされることもなかったのだと。 しかし、どうもそれだけではないように見える。 君の留守中に、何か悲しい出来事が彼女を見舞ったのだろうか? 君はどうする? 場の空気を変えようと、ルイズに話しかけるか(一二七へ)、部屋を出て休息に適した場所を探すか(二二〇へ)、それとも、 学院の誰かに会おうとするか(三二九へ)? 一二七 君はルイズに、自分が留守のあいだ、何か変わったことはなかったかと尋ねる。 物憂げな表情でうつむいていたルイズは、ゆっくりと顔を上げる。 「あんたが馬車に乗って出て行った次の日に、姫さまからの使いが来たわ」 彼女は言う。 「お昼過ぎには、姫さまにお会いできたわ。タルブに送り込まれた≪レコン・キスタ≫の新兵器らしきものが、不思議な光に包まれて 跡形もなく消え去ったって話は、姫様のお耳にも届いていたけど、そこにわたしたちが居たことは、王宮でもほとんど知られていないみたい。 アルビオンの軍艦を追跡していた竜騎兵が何人かあの光を目撃したそうだけど、被害に遭ったのは小さな村だけだから、本格的な 調査も行われなかったのね。 わたしは姫さまに、すべてをお話ししたわ。わたしたちがあの時タルブに居たこと、≪水のルビー≫を指に嵌めて≪始祖の祈祷書≫を 開いたら、古代文字が浮かび上がったこと、そこに記された呪文を唱えたら光がほとばしって、化け物を消し去ったこと、そしてそれが、 どうやら≪虚無≫の魔法であるらしいこと……あ、キュルケやタバサ、それにシエスタが近くに居たことは、伏せておいたわよ。 あの子たちは何も知らないし、ややこしいことに巻き込みたくないからね」 そこまで言って、ルイズは一息つく。 その表情は、あいかわらず陰鬱なままだ。 「姫さまは大変驚かれたけど、すぐに落ち着いてこうおっしゃったの。始祖の力≪虚無≫を受け継ぐ者は、末裔たる王家に現れるという伝説を 聞いたことがある、って。初代ヴァリエール公はトリステイン王の庶子だから、わたしにも少しだけ、王家の血が流れているのよ。 それから姫さまは、わたしの立てた手柄を褒めてくださったわ。あの化け物をあそこで止めなかったら、艦隊が集結しているラ・ロシェールは 大変なことになっていたでしょうからね」 君はぼんやりと考える。 ガリア、アルビオン、それぞれの王家の人間であるタバサやウェールズ皇太子にも、≪虚無≫の素質があるのだろうか、と。 しかし彼らは、≪ゼロ≫と呼ばれたルイズとは似ても似つかぬ、魔法の才能に恵まれた者たちだ(ハルケギニアの王族は一般に、 魔法の素質に優れた者ばかりだという)。 ルイズが普通の≪四大系統≫の魔法を使えぬことが、≪虚無≫を受け継いだ代償だと考えるならば、彼らが≪虚無≫の系統の使い手だとは 考えにくい――ルビーや祈祷書といった秘宝を持たせて試してみぬことには、断定できぬのだが。二一二へ。 二一二 ルイズは話を続ける。 「でも、この事を公(おおやけ)にするわけにはいかない、と姫さまはおっしゃったわ。≪虚無≫はあまりに大きすぎる力であり、 真相を知った者はわたしを利用しようとする、世界じゅうから狙われることになる、と。だから、わたしは姫さまと約束したの。 ≪虚無≫のことは誰にも言わない、たとえ親きょうだい相手であろうと、って」 そう言うと、寂しげな微笑を浮かべる。 結局のところルイズは、やっとの思いで手に入れた力を誇ることもできず、表向きには≪ゼロ≫のままなのだ。 ある者は厳しく、ある者は優しく、それぞれのやり方で彼女を愛してきた家族にさえ本当の事を話せぬというのは、つらい事に違いない。 「それからね、≪始祖の祈祷書≫は姫さまにお返ししたわ」 君は、あまりの驚きに言葉を失う。 ルイズは、タルブで使った術――≪爆発(エクスプロージョン)≫というらしい――の呪文は暗誦できるようだが、それ以外の術は いまだ使いこなせずにいる。 どうやら祈祷書は、持ち主の必要に応じて呪文が現れるという、まわりくどい仕組みになっているらしい。 担い手が簡単に≪虚無≫の術を極め尽くしてしまわぬよう、厳重な予防措置が施されているのだ。 つまり、祈祷書を手放してしまえば、ルイズはもはや新たな≪虚無≫の術を習得できぬことになる。 せっかく手に入れた力を捨ててしまうつもりか、と君が尋ねると、ルイズはそっとうなずく。 「姫さまは、わたしの身を心配してくださったのよ。だから、わたしもそれにお応えしたの。≪虚無≫のことは忘れて、 二度と使わないと誓うことで」 暗い微笑を浮かべたまま、ルイズは言う。 「大いなる力には大いなる責任と危険がともなうっていうけど、わたしにはそれらを受け入れる覚悟がないのよ。 ≪虚無≫としては初歩中の初歩にすぎない≪エクスプロージョン≫で、あれだけのことができるのよ? この先、祈祷書に浮かぶ呪文を 唱えたらどんなことが起こるのか、想像もつかないわ。自分が伝説の系統の使い手だとわかって、とても嬉しかったけど、 それ以上に怖かった。いつか、この力で大勢の人を傷つけてしまうんじゃないかって。絶大な力に酔いしれて、とんでもいないことを しでかすんじゃないかって。貴族といっても、しょせんわたしは世間知らずの小娘、ただの学生にすぎないんだから。 姫さまの心配もごもっともよ」 君はルイズに何か言おうとするが、ふさわしい言葉が見つからず、椅子の上でただ身じろぎするばかりだ。 「だから、わたしは≪虚無≫を捨てることにした。≪始祖の祈祷書≫をお返しして、すべてを忘れることに決めた。 ≪レコン・キスタ≫が倒されてしまえばハルケギニアには平和が戻るんだから、この力を祖国のために役立てる機会もないでしょうね。 もう二度と……二度と≪虚無≫を……使わない。平穏に生きるために、元の≪ゼロのルイズ≫に戻る……これでいい……そう決めたんだから」 語るルイズの声にしゃくり上げる音が混ざり、大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。一〇六へ。 一〇六 自分が涙を流していることに気づいたルイズは、きまずそうに顔をそむけ、目頭を拭う。 君が声をかけると、そっぽを向いたまま 「な、なんでもないわよ。そんなことより、あんたも秘密は守りなさいよ。誰かに喋ったりしたら許さないんだからね」と、 ぶっきらぼうに返してくる。 魔法が使えぬために屈辱と無念にまみれた人生を送ってきたルイズは、ついに自身の≪系統≫に目覚めた。 しかし、それが伝説の系統≪虚無≫であったために、彼女はその力を捨てることを選んだ――無用な騒動に巻き込まれぬためには、 そうせざるをえなかったのだ。 その悔しさ、失望、そして喪失感は、いかばかりのものだろう。 君はルイズを多少なりとも元気づけようと、冗談を口にする。 そういえば姫君からの褒美はなかったのかと言うと、ルイズはぱっと振り向き、信じられぬという顔でにらんでくる。 「姫さまは、あんたのことも褒めてくださったわ。主人を守って勇敢に闘ったのでしょうね、って。あのようなお言葉を頂いただけでも、 身に余る光栄なのよ。それに、爵位や勲章を頂いたら、この一件がおおっぴらになっちゃうじゃないの。秘密は守らなきゃいけないって 言ったでしょ」と言う。 君は肩をすくめ、こう言う――なりゆきとはいえ結果的に港町と軍を救ったのに、アルビオンでの手紙騒動の時と同じくただ働きとは、 ひどい話だ、と。 君の言葉を耳にして、ルイズの目つきがみるみる険しくなる。 「あんたねえ、このトリステインの姫殿下をけち呼ばわりするつもり? 姫さまはおっしゃっていたわ。わたしたちに働きに見合うだけの 褒賞を授けたい、それなのに感謝の言葉しか与えられなくて、申し訳なく思っている、って!」 君はにやりと笑うと、口だけならなんとでも言えるし、言葉に金はかからないからな、と返す。 その言葉を聞いて、ルイズは顔を真っ赤にする。 「こ、こ、この使い魔は、どれだけ意地汚いのよ! 貴族に対する敬意が欠けているとは思ってたけど、姫さままで馬鹿にするなんて、 し、信じられない! 許せない! その腐った性根、わたしが叩き直してあげるわ!」 そう叫ぶと箪笥に駆け寄り、抽斗から乗馬用の鞭を取り出す。 鞭を振り回すルイズから逃げ回りながら、君は思う――やはり『ご主人様』はこうでなくては、と。 落ち込んでいるよりも、元気に大声を張り上げているほうが、ずっとルイズらしい。五〇〇へ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5731.html
前ページドラえもん のび太のパラレル漂流記 学院の廊下を、一匹のどでかいネコとツインテールの少女が走り回っていた。 「こ、ここここのバカネコ! なぁにがいい音楽よ! この『剛田武リサイタルコレクション』ってただの騒音じゃない!」 「なにをいうんだ! ぼくはきみが『刺激的な音楽が聴きたい』っていうから…」 誰あろう、ルイズとドラえもんである。 逃げるドラえもんを遅れて爆発が襲い、さらにその後をルイズが駆けていく。 「刺激的にもほどがあるわよ! 魔法も使ってないのに、『ゼロのルイズがまた魔法を失敗したぁ!』 ってまたバカにされたのよ! 全部あんたのせいだわ!」 「め、めちゃくちゃだ!」 もはやこのところの日課になっているドラえもんとルイズの追いかけっこであった。 ルイズの失敗魔法は校舎を削り、その威力はちょっとシャレにならないものがあるのだが、 止めても聞かない上にどうせ後になってドラえもんが直すので、みな見て見ぬフリをしている。 そして、みなが黙認している理由がもう一つ。実はこの追いかけっこ、大抵すぐに終わるのであった。 「今日という今日は許さないわよ!」 このルイズ。胸も魔法もゼロだが、すばしっこさには定評がある。 人間の男にならともかく、短足ロボットなんぞに負けるはずもない。 「うわあっ!」 あっというまにドラえもんをつかまえると、その上に馬乗りになる。 そしてドラえもんのしっぽに次ぐ急所とも言うべき四次元ポケットに目をつけ、 「なにをする! あっ…」 ベリッ、とお腹から剥がしてしまった。 そのまま、手の中で弄ぶ。 「こ、こここのポケット、破いちゃったらどうなるかしらね!」 「や、やめろ! それがなくなったら…」 ドラえもんがめずらしく切迫した声でルイズを止める。 だがルイズは唇の端を意地悪くにやあー、と歪めると、 「びりびりびり!」 「ぎゃあーーー!!!!」 聞こえてきた破滅的な音に、ドラえもんが思わず叫びをあげるが、 「……なあんてね」 本当にポケットを引き裂いた訳ではない。 ただ、切り裂くような指の動きにあわせて、ルイズが声を出していただけだ。 ……実に古典的なイタズラであった。 「わるふざけはやめてくれ。まったくしんぞうにわるいよ」 ドラえもんの取り乱しように多少溜飲を下げたルイズがドラえもんにポケットを返すと、 ドラえもんはぶつくさと言いながらポケットを付け直した。 「にしても、このポケットがないと何も出来ないなんて、あんたも意外と不便ね」 「そりゃ、ずっとおなかにつけてるからなくしたりしないし、 のび太くんの家にはスペアポケットが……スペアポケット!!!!」 ポケットを破かれそうになった時より大きな声で、ドラえもんが叫んだ。 「スペ……え? なによそれ? 新しい道具?」 きょとんとしているルイズに、ドラえもんが大慌てで説明する。 「スペアポケットだよ! この四次元ポケットとおなじつくりの、よびのポケットなんだ!」 「……へえー」 一応そう言ってみるものの、ルイズには何がそんなに驚くことなのか、よく理解出来ない。 ドラえもんはそんなルイズの様子に焦れたように、 「わからないかなあ。このポケットとスペアポケットは、四次元空間を通じてつながっているんだ」 「つまり?」 「このポケットの中にはいれば、きっとのび太くんの家のスペアポケットに出られるんだ!」 そこに至って、ようやくルイズもドラえもんの興奮の理由がわかった気がした。 「それってまさか、あんたが家に帰れるってこと?」 「そうさ! ……ばんざーい、ばんざーい! スペアポケット、ばんざーい!!」 いつものやさぐれたような口調も忘れ、素直に喜びをあらわにするドラえもんの声を、 なぜだろう、ルイズはどこか寒々しい気持ちで聞いていた。 「のび太くんの家にやってきてからこのかた、こんなに長い時間、のび太くんとはなれたのは はじめてだったかもしれない。でも、それももうおわりだ。 まってろよ、のび太くん。ぼくがいま行くから!!」 興奮冷めやらぬ、といった様子で無邪気に喜ぶドラえもん。 一方で、ルイズは複雑な心境だった。 「そう。よかったじゃない」 祝いの言葉も、ついついかすれてしまう。 ――こんなおかしな使い魔、いなくなればいい、と最初はずっと思っていた。 しばらくして、ほんの少しだけドラえもんと親しくなってからも、もしドラえもんが 元の世界に帰る方法を見つけたら、快く送り出してやろうと考えていた。 しかし、それはもっともっと先のことで、しばらくはこのままの生活がずっと続くと思っていた。 なのにその時がこんなにも早く、こんなにも唐突に訪れるとは、ルイズは全く想像もしていなかったのだ。 (さっきまで、いつも通り、ふつうにバカやってたじゃない。なのに、こんないきなり……) 降って湧いたような事態に、ルイズは混乱していた。 「とにかく、部屋に戻りましょう。こんなこと、廊下でする話じゃないわ」 「ん? ああ、そうだね。帰りじたくもしなくちゃいけないし……」 ドラえもんの弾んだ声に、なぜが胸がずきりと痛む。 だが、ルイズはそれを無視して無言で廊下を歩き、自分の部屋のドアを開ける。 目の前に広がる、無人の部屋を見た時、つい、口から思いが漏れた。 「そっか。あんたが出て行ったらわたしまた、一人でここで暮らすのね……」 そんな弱音を口にしてしまってから、ハッとして後ろを振り返る。 「ルイズ…」 さっきまではしゃいでいたドラえもんが、今は申し訳なさそうな顔でルイズを見ていた。 ――まずい、そんなつもりじゃなかったのに。 ルイズは焦って弁解して、 「ち、違うわよ! さびしいとかそういうんじゃないからね! 勘違いしないでよ、バカネコ! ただ、わたしは…わたし、は……」 しかし、後に言葉が続かない。言うべき言葉は喉に詰まって、何も出てきてはくれなかった。 ルイズは大きく深呼吸して、何とか表面だけでも心を取りつくろうと、 「とにかく、なんでもないわ。いいから、早く帰りなさいよ。 ……あんたには、ちゃんと必要としてくれてる人が、待ってる人がいるんでしょ」 ルイズはそう言って、ドラえもんから視線を外した。 そのままでいると、何だかドラえもんには見られたくない顔や、 聞かせたくない言葉を漏らしてしまう気がしたのだ。 「いや、ぼくは行かない」 「…えっ?」 意外なドラえもんの言葉に、一瞬ルイズの顔がほころびかけ、 「な、なに言ってんのよ! あんたがいないと、のび太ってのが…」 それを必死で押し隠して、怒ったようにドラえもんに食ってかかる。 しかし、ドラえもんは穏やかな顔で首を振った。 「帰るほうほうがわかっただけでいいんだよ。 ぼくにはタイムマシンやタイムベルト、ほかにもべんりな道具がたくさんあるからね。 帰るのがいつになったって、ぼくがいなくなった時間にもどればかんけいないんだ」 ぽん、とルイズの頭にドラえもんの手が乗せられる。 「どうせのりかかったふねだ。ここできみを見守って、きみのことがぜんぶかたづいてから、ぼくはもどるよ」 「ドラえもん…」 その優しい言葉を聞いた途端、ルイズの顔がふにゃっと崩れ、泣き出してしまいそうになる。 しかし、何とかそこで踏み止まり、自分が無防備な顔をさらしていたことに気づいて、ルイズは真っ赤になった。 「お礼なんて、言わないんだからね!」 その顔の火照りをごまかすように、ルイズはそんな捨て台詞を残して部屋の中に駆け込んでいった。 ――その、夜のことだった。 「あれ、ドラえもん…?」 夜中に目が覚めたルイズは、ドラえもんが寝床を抜け出しているのに気づいた。 「もう、あの不良使い魔は…!」 そう毒づいて、もう一度寝てしまおうかと思ったが、どうにも気にかかって眠れない。 「これは別に、あんたのことが心配だからとかじゃないんだからね!」 誰も聞いていないのにそう言い訳して、寝台を降りる。 「ご主人さま置いて勝手に抜け出すなんて、使い魔失格……あれ?」 ぶつくさと言いながら、扉を開いたその先、そこに、ドラえもんはいた。 うっすらとした月明かりの下、一枚の写真を手に、何かを語りかけているのだった。 「やあのび太くん。きみのところにもどるのは、まだだいぶ先になりそうだよ。 でも、きっともどるから。ぜったいにもどるから、まっててくれよ」 ルイズは写真に話しかけるドラえもんを見て、思わず声を出しそうになった。 (あいつ…!) それだけ、写真を眺めるドラえもんの顔は優しくて、それ以上に悲しそうだったからだ。 ルイズの見守る中、そうとは知らぬドラえもんは、空を見上げ、ぼそりとつぶやく。 「ああ、のび太くん。きみはいったい、どうしているかなあ…」 そしてその時、ルイズは見た。 血の通わぬはずの異世界のカラクリ人形の目から、透明な雫がこぼれ落ちていくのを……。 「……あの、バカ」 ぎゅうぅ、と唇を噛み締め、ルイズはうつむいた。 ――どうして気づいてやれなかったのだろう。 ドラえもんはあんなにのび太のことを心配して、そして何より、あんなにのび太に会いたがっていたのに。 なのに自分は勝手な都合でドラえもんを引き止め、ドラえもんの気持ちも考えずに無神経に喜んでいたなんて。 ルイズは顔を伏せたまま、ごしごし、と涙をぬぐう。 「……よし」 そして、ふたたび顔をあげた時のルイズの顔は、さっきまでの甘えん坊な小娘の顔ではなかった。 誇り高い貴族の顔が、そこにあった。 翌朝、めずらしく自分で起きだしたルイズは、何でもないことのようにドラえもんに告げた。 「そうそう。そういえば言い忘れてたけど」 「なんだい? またキュルケにからかわれた? それともじゅぎょうでしっぱいしたのかい?」 失礼極まりない質問だが、ドラえもんがルイズを気遣うような言葉をかけてくるのはめずらしいことだ。 決心が揺らぎそうになるが、それを必死で押さえ、ルイズはこう言い放った。 「そんなんじゃないわよ。そうじゃなくて、あんた、今日で使い魔クビだから。故郷帰りなさい」 出来るだけ冷たく、突き放すように。 ドラえもんはしばらくポカンとしていたが、 「ははあ。ルイズ、さてはきみ、きのうのことをきにしてるんだな」 「そんなんじゃないわ…」 「いいんだ、いいんだ。きみだってなかなかいいところがあるじゃないか。 でもだいじょうぶさ。いつだって帰れるんだ。いまじゃなくてもいい」 「そんなんじゃないって言ってるでしょ!」 あくまで強情なルイズに、ドラえもんはやれやれとばかりに首を振った。 「ねえルイズ。ぼくはもう、帰るほうほうがわかっただけでまんぞくなんだ。 時間なんてどうにでもなるんだから、このままきみのつかいまをつづけて…」 諭すようにドラえもんがそう言ってくれている。……はっきり言えば、嬉しかった。 今まで家族以外にこんな優しい言葉をかけてくれる者がいただろうか。 だが、だからこそルイズにはもう、耐えられなかった。 その言葉をさえぎって叫ぶ。 「でも、あんたは泣いてたじゃない!」 もし、ドラえもんがルイズの所に留まって、使い魔をしてくれたらどんなにかいいだろうと思う。 しかし、それは望んではいけないことなのだ。ドラえもんのことを思うなら、決して。 「たしかに元の世界に戻ってからタイムマシンとやらを使えば、 あんたが消えてた時間はなくなって、元の通りになるかもしれない。 あんたの大好きなのび太だって、悲しい思いをしなくて済むかもしれない。 ――でも、あんたはどうするのよ! これからずっと、そののび太っていうのに会いたいって気持ちを抑えて、 わたしの使い魔をやるって言うの!? そんなの、わたしは認めないわ!」 ドラえもんが驚いた顔をしている。だが、それは図星を突かれた驚きの表情であって、 見当外れのことを言われた驚きではなかった。 そんなドラえもんの顔を直視出来なくて、ルイズは下を向いた。 「やっぱりあんた、ほんとは帰りたいんでしょ。そんなやつを、わたし、使い魔にしていたくない。 していたくないから、だから、帰って。帰ってよ、お願いだから……」 それでもかすれた声で、最後まで言い切った。 「……ルイズ」 かけられた声にルイズが顔をあげると……ドラえもんが複雑な顔をしてルイズを見ていた。 それだけで、それ以上何も言われずともルイズにはわかった。 やはりドラえもんは帰りたいのだ。元の世界に帰って、のび太と会いたくてたまらないのだ。 「ルイズ。その、なんていったらいいか…」 「なんにも言わなくていいわ」 ルイズがそっけなくそう言い放ち、それきり、部屋に沈黙が満ちる。 「……おせわになったひとたちに、あいさつに行ってくるよ」 やがて根負けしたようにドラえもんがそう言って、部屋を出て行った。 ――バタン。 その扉が閉められた途端、ルイズは堪え切れずにベッドに身を投げ出し、泣き出した。 「これで、いいのよね、ちいねえさま。わたし、正しいことをしたんだもの」 つぶやいてみても、心は晴れない。 優しいカトレア姉さまのことを考えて、涙を止めようとしてもダメだった。 (わたし、昔ほどちいねえさまのこと、考えなくなってた。 それってきっと、わたしが一人ぼっちじゃなくなってたから。 いつのまにか、あの使い魔はわたしの心に空いた虚無を埋めていたんだわ) そんなことばかり考えてしまって、よけいに悲しくなる。 ルイズは一人、枕に顔をうずめて泣き続けた。 戻って来たドラえもんに、『使い魔の見送りなんてどうでもいい、わたしは授業に行く』 と意地を張ったため、ドラえもんは授業の終わった夕方に元の世界に戻ることにした。 そのくせ出発が夕方だと決まると、なんのかんのと理由をつけて授業をサボり、 ルイズは最後の何時間かをドラえもんと一緒に過ごした。 だが、それはドラえもんも同じで、もうとっくに帰り支度なんて終わっているはずなのに、 部屋の隅でグズグズと何か作業をしていた。 ――しかし、いつか幕は引かねばならない。 そして、それが長引けば長引くほど、別れのつらさは倍増するのだ。 ルイズは意を決し、往生際悪く作業を続けるドラえもんに呼びかけた。 「そんなとこで何してるのよ、ドラえもん! 元の時代に帰るんでしょ?! だったら早く、しなさいよね…!」 最後の方が鼻声になってしまったが、今のルイズとしては上等だろう。 それでもまだ動こうとしないドラえもんに、出来るだけ苛立ちを込めて、 「ドラえもんー!?」 と呼んだ。 さすがに無視出来ないと感じたのか、ようやくドラえもんが立ち上がる。 そしてそのまま、ルイズの至近距離まで近づいてきた。 「…なによ」 泣きはらした顔を見られたくなくて、ぷい、とルイズはそっぽを向く。 「その、きみにはせわになったなあ、と思って…」 「ほんとよ! すっごく感謝しなさいよね! 貴族のわたしが、あんたみたいなヘンテコを 養ってやったんだから、もっと感謝して、もっと……」 最後までいつも通りにと思うのに、やはりどうしても言葉が出てこない。 代わりに目から水があふれてくる。 ……かっこ悪い。 ルイズはごしごしと目元をこすった。 ドラえもんは、そんなルイズをからかうでもバカにするでもなく、優しく語りかけてくる。 「なあルイズ。そんなになくなよ」 「な、泣いてなんかないわよ! あんたなんかがいなくなったって、 何にも変わらない! だから、悲しくなんかないんだから、 さっさと行けばいいじゃないの!」 最後まで素直になれないルイズの肩に、ぽん、とドラえもん手が置かれた。 「四次元ポケットはここにおいていくよ。 これさえあればいつだってここにもどってこれるし、きみだって道具を使える」 驚いて、ルイズはドラえもんの顔を見る。 その顔は、どこまでも穏やかだった。 「で、でもこれ、あんたの大事なもの…」 「そんなものより友だちのほうがたいせつさ」 「とも…だち……」 その言葉に堪え切れず、ルイズの瞳からぶわっと涙があふれた。 貴族としてのプライドも、ご主人さまとしての体面も忘れ、体ごとぶつかるように、ドラえもんにしがみついた。 「……バカ、バカ! なんで行っちゃうのよ! ポケットなんていらない! 道具なんてどうでもいい! 友達なんだったら、一緒にいてよ!」 「ルイズ…」 いけないと思っても、溢れ出した言葉は止められなかった。 「わたしにもようやく、居場所ができたと思ったのに…! あんたと二人なら、ゼロだってバカにされてもがんばれるって、 そう、思ってたのに…!」 それからはもう言葉にならない。 ルイズは声をあげて泣き、ドラえもんも涙をこぼしながら、ひたすらルイズの頭をなで続けた。 「ルイズ、やっぱりぼくは…」 ドラえもんがとても困ったような顔で、口を開く。 ルイズはドラえもんが何を言おうとしているか悟って、首を振った。 「…やめて。さっきのは気の迷いよ。忘れて」 「でも…」 「ドラえもん。わたしに恥をかかせないで。……だって、わたしは決めたの。 自分の意志で、あんたを元の世界に帰すって。この選択は、誰にもくつがえさせはしない。 たとえあんたにだって、わたしにだって、ね」 「ルイズ…」 ドラえもんは一度口を開いて何かを言いかけ、しかしまた口を閉じると、 今まで見たことがないほど真剣な顔をして、一言一言を惜しむように、ゆっくりと口を開いた。 「ルイズ。きみはゼロなんかじゃない。 きみはぼくがしってる中でいちばんりっぱなきぞくで、ぼくのじまんの……ともだちだよ」 ――そして、とうとう別れの時が訪れる。 「ぼく、行くよ」 ドラえもんが、ポケットを外し、そこに足をかける。 「あっ……」 それを見てルイズは思わずドラえもんに手を伸ばしかけ、しかし何も出来ずに下ろした。 どれだけつらくても止めてはいけないのだ。 それが、自分の決断なのだから。 ……手は出せない。だからせめて、言葉をかける。 「も、もし、うまく帰れなかったら、ちゃんとここに戻ってきなさいよね! その時は……わ、わたしの家で、ちゃんと雇ってあげるから! だから…」 ルイズのその言葉を聞いた時、ドラえもんは微笑んだように見えた。 そうして、 「――さようなら、ルイズ」 その言葉を最後に、ドラえもんの姿はポケットの中に消えた。 「ドラ、えもん? ……いっちゃった、の?」 ルイズの言葉に答える者は、もう誰もいない。 後に残ったのは、小さなポケットだけだった。 ルイズはずっと、一晩中ポケットの前で待ち続けた このままあのヘンテコな使い魔と別れることになるなんて ルイズにはとても信じられなかったのだ 「だってあいつ、間が抜けてるんだもの。きっとすぐに戻ってくるに決まっているわ」 だからルイズは、使い魔からのその小さなプレゼントを胸に抱き 帰ってきたドラえもんにかける言葉を一生懸命に考えながら 「ふふ…」 ときどき、穏やかで優しい妄想にほおをほころばせる かけたい言葉はたくさんある。伝えたい想いも、また だけど、時間はいつだって有限で ルイズはいまだ決定的な言葉を見つけられないまま 時計は淡々とその時を刻む やがて空には曙光がさし、いつのまにか夜は明けて ドラえもんは結局、戻ってこなかった…… 「ん…。あさ…?」 ルイズが目を覚ました時、もう日は空に高く上がっていた。 「ドラえもん! あんたまたわたしを起こすの――!」 忘れたでしょ、と言いかけて、ルイズはようやく思い出す。 「そっか。いなくなったんだった。……あはは。これですっきりしたわ。 あんなナマイキな使い魔。こっちから願い下げだもの」 そんな言葉を口にして、なのになぜだろう。部屋の広さに、視界がにじんだ。 「あはは。わたし、ほんとに一人ぼっちになっちゃった……」 ふらふらとした足取りで、ドラえもんが寝ていた部屋の隅に向かう。 寝床にはあまりこだわりがないのか、そこに敷かれた藁の上で、 ドラえもんはいつも横になっていたのだった。 「こんなことなら、もうちょっとあったかい寝床、用意してやるんだった。……ん?」 そこでルイズは、ドラえもんの寝床に何か落ちているのに気づいた。 「なにかしら…」 ルイズがそれに手を触れると、いきなり空中にドラえもんの姿が浮かび上がった。 驚くルイズに、映像のドラえもんが語りかける。 『ルイズ。面とむかってはなすとてれくさいから、こうして手紙をのこすことにするよ』 その言葉を聞いて、ルイズは悟った。これは、たぶん未来の世界の手紙なのだろう。 帰る直前、ドラえもんはこっそりとルイズにこんな手紙を残していたのだ。 「あいつ、こそこそと何かやってると思ったら、こんなよけいな、こと…」 言っている間に、また涙が出てくる。グジ、とルイズは鼻をすすった。 『なあルイズ。きみはまったくわがままでへんてこなやつだったけど、その…… きみとすごした日々は、とても、たのしかったよ』 空に浮かび上がったドラえもんが、照れくさそうにそう言った。 「わたしも、よ。あんたこそヘンテコで、ご主人さまの言うこと、なんにも聞かなかったけど、 ……でも、わたしだって楽しかった。あんたがいるから、わたしは一人ぼっちじゃなかった」 この先何があっても、たとえもう二度と、ドラえもんと会えなくなったとしても、 自分はドラえもんと過ごした日々を忘れたりはしないと確信出来た。 『ぼくが、もし、もしのび太くんにあうまえにきみとであっていたら……』 そこで映像のドラえもんが鼻をすすりあげる。 「なによ、いまさら。そんなの、ずるいじゃない…」 現実のルイズもつられてグズ、と鼻をすする。 後ろを向いて涙をぬぐったドラえもんが、無理矢理な明るい声で告げる。 『ルイズ。ぼくはきみのためにポケットをのこしていくつもりだけど、 ひとつだけやくそくしてほしい。なれないひとに四次元空間はきけんなんだ。 ぜったいに、ぼくをおってポケットの中に入ったりしないとやくそくしてくれ』 その言葉にルイズはぐっと息を飲む。 いざとなれば、ドラえもんを追ってポケットの中に入ればいい、心のどこかでそう思っていたのだ。 だが、他ならぬドラえもんの言葉なら、守らないわけにはいかない。 「…わか、ったわ。始祖と紋章に誓って、ポケットには入らない」 聞こえていないと知っていながら、律儀に誓いの文句を口にする。 『この世界には戦争や怪物、魔法を使うおそろしいエルフまでがいるらしいじゃないか。 そんな世界で、魔法も使えないのにくそまじめでうそもつけないきみがやっていけるか、 ぼくはしんぱいだ。だからひとつだけ、道具をのこしておくよ。 すごい力をもった道具だから、ぼくが行ったあとで、どうしようもなくなったときにだしてくれ』 そう言って、ドラえもんは藁束の一番奥のふくらみをたたく。 『これはぼくじしん、まだいちども使ったことのないとっておきだけど、使いかたはかんたんで…』 だが、その言葉は他ならぬルイズの声でさえぎられた。 『そんなとこで何してるのよ、ドラえもん! 元の時代に帰るんでしょ?! だったら早く、しなさいよね…!』 その声の主は、今手紙を見ているルイズではない。過去のルイズが、ドラえもんをせかしているのだ。 その言葉に、ルイズは手紙の終わりが近いことを悟った。 なぜならこの後、ドラえもんはすぐに…… 『ゴメン、もう時間がないみたいだ。道具のせつめいは紙に書いてはりつけておいたから…』 せめて一言、とドラえもんは身を乗り出すようにして、最後の伝言を残し、 『ドラえもんー!?』 遠くからまた、ルイズの声が聞こえて、 『…それじゃあね、ルイズ。ぼくはぜったい、もどってくるから――』 ――ぷつん。 そこで、映像は途切れた。 映像が終わり、われに返ったルイズは、ぼんやりとした動きで敷き詰められた藁を見た。 そこには確かに、何かが隠されているようなふくらみがあった。 ――ごそ、ごそ。 見るからに緩慢な動きで、藁の奥に隠された何かを引き出す。 「……なに、これ?」 何かの装置なのだろうか、縦長で、何かのケースのようにも見える奇妙な物体が置いてあった。 そのまんなかの辺りには付箋のような物が貼ってあって、道具の説明らしきものが書かれているが、 「バカね。あんたの世界の言葉、わたしが読めるワケないじゃない…」 翻訳こんにゃくを使えばトリステインの文字だって書けるだろうに、 ドラえもんは焦って日本語で字を書いてしまっていたのだ。 涙に濡れたルイズの顔に、くすりと小さな笑みが戻る。 こんな時でもドジなドラえもんが、あまりにもドラえもんらしくて、笑ってしまう。 「でも、いいわ。あんたの気持ち、受け取ったから……」 これではこの道具の使い方は分からないが、元よりルイズはこの道具を、 いや、ポケットの中に入っている他の道具も含め、ドラえもんの道具を使う気はなかった。 自分の、自分だけの力で、胸を張って生きていく。 いつか、ドラえもんと笑って再会するため、それが必要なことに思えたのだ。 次に会った時、ドラえもんが自分の使い魔であることを誇れるような、そんな人間になりたい。 ――それが、ルイズの新しい目標だった。 「ドラえもん、あんたが帰ったら、部屋ががらんとしちゃったわ。 でも……すぐに慣れると思う。ううん、ぜったいにそうなる。なるように努力する。 だから、だから心配しないで」 ルイズは気丈に胸を張り、涙によごれた顔をあげ、過去のどんな約束よりも重い、誓約の言葉を紡ぐ。 「でも、その代わり、わたしがずっと、がんばれたら。 いつか、胸を張って笑えるようになった、その時には。 また、笑顔で…えがお、で……う、うぅ、ぐ、グス…ドラ、えもん」 しかしついには堪え切れず、誓いの言葉に嗚咽が混じった。 「ドラえもん! ドラえもん、ドラえもん、ドラえ…もん…」 どれだけ強がっても、幼い心に別れの痛手は重く、心の傷はまだジクジクと痛む。 それでも、ルイズはそれに必死で抗った。 耐えがたい胸の痛みがあふれる度、ドラえもんの残した道具を強く、強く抱き寄せる。 よぎる思い出の度にこみあげる涙の衝動に負けぬよう、一層強く、それを抱き締めるのだ。 朝の喧騒はまだ遠く、ルイズの前には密やかでちっぽけな、けれど過酷な戦いが待っている。 しかしそれでも、孤独ではない。 ルイズは別れた友の贈り物を抱え、静かに目を閉じる。 傷だらけの心を休ませて、また立ち上がるために。 ……そして その道具を大切そうに抱えたまま、ルイズが眠りに落ちてしまった後。 ――ひらり。 ルイズの腕の間から、道具に貼られた付箋が落ちる。 その、一行目。 そこにはドラえもんの字で、こう書かれていた。 『地球はかいばくだん』と。 第六話『さようなら、ドラえもん』 おわり 前ページドラえもん のび太のパラレル漂流記
https://w.atwiki.jp/dq3invip/pages/111.html
1でやること ■リムルダールのまちにて「まほうのかぎ」購入(ラダトームにも鍵屋はあるがまほうのかぎが必要) ■ガライのまち(ガライのはか:要まほうのかぎ)にて「ぎんのたてごと」入手 □メルキドのまちの入り口にてゴーレムを倒す(ようせいのふえが有ると楽) □ぬまちのどうくつにてドラゴンを倒し、ローラ姫を助ける。(要まほうのかぎ) □ローラ姫と宿に泊まる。(ゆうべはおたのしみでしたね) □ラダトームのしろにて王様に話しかけ、姫より「おうじょのあい」を入手 □たいようのいし入手 □ロトのしるし入手 □ドムドーラのまちにてあくまのきしを倒し、「ロトのよろい」を入手 □あめのほこらにて「あまぐものつえ」を入手 □せいなるほこらにて「にじのしずく」を入手 □「にじのしずく」を使用して橋を架ける □「ロトのつるぎ」入手 □りゅうおうを倒す □りゅうおうはいきていた!りゅうおうをたおす エンディング .
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5279.html
前ページ次ページ異世界BASARA 松永がイーグル号に乗り込んだ頃…… 「うおらああぁぁぁっ!どけどけどけええぇぇーー!!!」 立ちはだかるレコン・キスタ兵を力任せに吹き飛ばし、ルイズを背負った幸村が港を目指してニューカッスルの城内を駆け抜けていた。 「がんばれよ相棒!あともうちょっとだぜ」 「おう!……っぐ……」 力強く返事をする幸村だったが、受けた傷に痛みが走り、脇腹を手で押さえる。 「相棒!?大丈夫か!」 「……な、なんの。これしきの傷、何ともござらぬ!」 心配するデルフリンガーに幸村は応えた。 「それに、拙者はここで膝をつくわけにはいかん」 幸村は自分の背中で眠っているルイズを見る。 自分の為にデルフリンガーを届け、その結果ワルドの攻撃を受けたルイズ…… 今、自分はそのルイズの命を背負っている。ここで倒れる事は即ち、ルイズの死を意味するのだ。 幸村は歯を食いしばり、傷の痛みをこらえる。 「主の命守れずして……何が武士か!!」 傷口から手を離すと、幸村は再び走り出した。 小さな、それでも勇気と優しさを持った主人を守る為に。 「どおおおりゃああぁぁぁーー!!!!」 扉を蹴破り、階段を駆け下りて、幸村は遂に港に辿り着いた。 だが、そこにイーグル号はなかった。 松永が既に船を出港させてしまったのである。 「な……そんな……!」 「……どうやら間に合わなかったみてぇだな」 「……!!……くそおおぉっ!!」 声を荒げる幸村に対して、デルフリンガーは静かに言った。 と、デルフリンガーは見た事のある2人を見つけた。 「ん?ありゃあヘタレの坊主と爺さんじゃねぇか?」 デルフの言葉に、幸村も顔を向ける。 「ギーシュ殿ではないか!無事でござったか!!」 そこには膝を抱えているギーシュと、ボロボロになって地面に倒れている氏政がいた。 「あ、ああ君か……君も無事だったんだね」 「うむ、手傷は負ったがこれしき何ともない。しかしこれは……」 幸村は倒れている氏政を見て言葉を失う。 その幸村に代わってデルフリンガーがギーシユに問い掛けた。 「ボッコボコにやられてんなぁ、一体何があったんだ?」 「ミ、ミノタウロスがウジマサを……それに見た事ない服を着た男が……」 ギーシュが震える指で指差した先には、見覚えのあるブロンドの男が横たわっていた。 それは、胸を氷の矢で射抜かれたウェールズであった。 幸村は驚いた表情でウェールズに駆け寄ろうとした。 だがその時、階上から怒号が響いてきた。レコン・キスタの兵達がここに近づいてきている…… 「……ギーシュ殿、ルイズ殿を頼む」 と、幸村は背負っていたルイズをゆっくりと地面に降ろして横たわらせた。 「き、君……まさか戦う気なのか?」 「北条殿は動けぬし、お主も戦えんのだろう?ならば、拙者が迎え撃つしかあるまい」 「無茶だよ!相手の数は5万だよ5万!!それに君だって酷い怪我じゃないか!!」 「……たとえ無茶でも、勝ち目がなくとも……拙者はルイズ殿を守る。それが、武士としての務めにござる」 幸村はふらふらと、おぼつかない足取りのまま入り口の前まで来た。 傷口は既に熱を持ち、大量に出血したせいか意識も薄れかけている。今の幸村はとても戦える状態ではなかった。 「結局こうなっちまうかぁ……短いつき合いだったなぁ相棒……」 「戯言を申すな」 「あん?」 「拙者はここで果てるつもりなどない。ルイズ殿もギーシュ殿も北条殿も……拙者が必ず守りぬく」 それを聞くと、デルフリンガーは嬉しそうにカタカタと震えた。 「いいねぇ!それでこそガンダールヴだ!よっしゃ、いっちょやるか!!」 幸村は傷だらけの体のまま、入り口の前に仁王立ちして敵を待ち構えた。 しかしその時…… ゴゴゴゴゴゴ、と足元から轟音が聞こえてきた。 何事か?と、幸村は地面を見つめる。 次の瞬間、地面が勢いよく爆ぜ、何かが飛び出してきた。 飛び出してきたのは巨大な槍……とても常人では扱えぬような槍であった。 「これは、もしや……!!」 幸村の脳裏に戦国最強の男の名が浮かぶ。 「…!!……」プルオォォォン!! 幸村のおもった通り、開いた穴から忠勝がバーニアを噴かせながら現れた。 よく見れば、忠勝の両肩にはキュルケとタバサの姿も見られる。 「嘘!?本当にここにいたわ」 幸村やルイズ達を見て、キュルケが驚いたように言った。 だが、驚いたのは幸村も同じである。 「忠勝殿!それにキュルケ殿も……何故ここに?」 「何故って……あなた達を追ってきたに決まってるじゃない」 「し、しかし、どうやって拙者達の場所を……」 「彼のおかげ」 キュルケとは反対の肩に乗っていたタバサが呟く。 すると、忠勝の背中からバッ、と誰かが飛び降りてきた。 「よぉ幸村!!大事ないか?」 半裸に近い服装に大きな三叉槍……前田利家であった。 「トシイエがあなたの匂いを嗅ぎつけてここまで来たのよ。ホント……犬並の嗅覚ねあなた……」 「おう、それがしは犬千代だからな!!」 利家は胸を張って自身満々に言った。 幸村は呆然とそのやり取りを見ている。 が、しばらくして状況を理解したのか、安堵の笑みを浮かべ……そして ドサッ……と音を立てて倒れた。 「え?ちょ、ちょっとどうしたのよ!?」 突然倒れた幸村にキュルケは慌てる。 (相棒……やっぱ無理していたか……) 「時間がねぇ!ここから逃げるぞ!」 主の手から滑り落ちたデルフリンガーは、カタカタと震えながらキュルケ達に向かって叫んだ。 「逃げるって、任務は?ワルド子爵はどうしたのよ?」 「手紙は娘っ子が持っている!あのキザ野郎は裏切り者だったんだ!」 「いたぞおぉ!!」 デルフが叫んだと同時に、階上から武装したレコン・キスタ兵が現れた。 「タダカツ」 だが、タバサが表情1つ変えずに忠勝に命令した。 忠勝の両肩から砲身が現れ、砲弾が発射される。 砲撃により、現れたレコン・キスタ兵の先陣は吹き飛ばされた。 「見ただろ?敵がそこまで来てんだ!」 状況を察知したのか、キュルケ達は負傷した幸村やルイズ、氏政を忠勝に乗せ、空いた穴から脱出した。 夢を、ルイズは夢を見ていた。 夢の中でルイズは、池のほとりにある小船の中にいる。 うらぶれた中庭にある池…ルイズが「秘密の場所」と呼んでいる所だった。 ――ルイズ殿―― 誰かが自分を呼んでいる。 だけど、ワルドではない。いや、もう自分が憧れていた子爵様は来ない筈だ。 ――ルイズ殿―― では、誰が自分の名を呼んでいるのだろう…… 「ルイズ殿」 ルイズが顔を上げると、そこにいたのは幸村だった。 幸村はルイズの小船に近づき、そっと手を差し出してくる。 「泣いておられたのですか?」 幸村の言葉にルイズは子供のように頷いた。幸村は静かに微笑んで言った。 「泣かないで下され。拙者が、いつまでもルイズ殿の傍におりまする」 トクン……と、胸が高鳴る。 顔が、火のように熱くなる。 ルイズは幸村の差し出した手に手を伸ばし、そっと握り締めた。 ルイズの夢はそこで終わった。 頬に強い風を受け、目を覚ましたのである。 ルイズは自分が、タバサの使い魔の忠勝の背に乗っている事に気づいた。 「……ここは?」 「おぉぉぉ~?気づいたかルイズゥゥゥ~!?」 忠勝の足にしがみついた利家が聞こえるように叫ぶ。 見ると、キュルケとタバサが忠勝の肩に、ギーシュは利家とは反対の足にしがみついていた。 見上げると、空が広がっている。自分は助かったのだ。 ワルドに殺されそうになった時、幸村が助けに来てくれた。 それから自分はデルフを幸村に届けたがワルドの風を受けて……それからずっと気絶していたのだろう。 自分が無事だという事は、恐らく幸村はワルドに勝ったのだろう。 しかし、ルイズは自分の使い魔の姿が見えない事に気づいた。 「ユキムラ……ユキムラは!?」 声を荒げて幸村の姿を探す。 と、ルイズの視線が忠勝の腕の中に向いた。 ――そこで彼女は見た―― ――炎のような色の服が、赤黒い血で染まった使い魔の姿を―― 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2315.html
びゅうびゅうと吹き付ける乾いた風が、桃色の長く柔らかい髪をぶわっと巻き上げる。 その持ち主が慌てて自分の髪を押さえようとする前に、真っ赤なマントと大きな背中が風を遮った。 軽く手櫛で撫でつけ、まとわりついた砂埃を払い終えた髪を整えると、その桃色の髪の少女は優しく微笑んで口を開いた。 「ありがと」 返事はない。当然のことをしたまでだと言わんばかりに微動だにせずに、赤いマントの持ち主は前を向いて立ちつくしている。 少女は――ルイズは、少しだけ昔を思い出した。 彼女の決して長いとはいえない人生の中、ほんの少しだけ昔の話。 こうして彼女の前に立つ背中は、大きくなってもあの頃から何一つ変わっていないなと、思い出を重ねる――。 全ての始まりは春の使い魔召喚の儀式だった。 魔法成功率ゼロ、学院始まって以来の落ちこぼれ『ゼロのルイズ』と呼ばれ、蔑まれ続けてきたルイズ。 彼女が報われない努力を積み重ねるだけの地獄から抜けだし、新たな一歩を踏み出す切欠となったのである。 一度、二度、三度と繰り返されたサモン・サーヴァント。 現れた『ゲート』が爆発を繰り返すのみで、使い魔の影も形も見えない様子に、周囲の生徒たちは嘲笑を込めて囃し立てる。 ――もう諦めて留年したらどうだ。 ――やっぱりゼロは何をやってもゼロだな。 ――いくらダメだからって、平民を連れてきたりするなよ。 だが彼女は諦めなかった。むしろ、背後でさんざん騒いでいるボンクラ共は一体何を見ているのかと憤慨していた。 一度目も、二度目も、三度目も、そしてたった今詠唱をしている四度目も『ゲート』はちゃんと出現しているではないか。 爆発したのは……そう! きっとなにか『爆発してしまうモノ』が喚び出されただけなんだと。 あれちょっと待て、じゃあ何か、私はそれを爆発させずに呼び出さなければいけないのか――と思わず詠唱に詰まってしまうルイズ。 しかし、すぐさま「そんなことはない」と気を取り直して詠唱を続け、魔力をゲートに流し込む。 やがて完全に安定したゲートが、今までとは違った緑色の不思議な光を放ち――。 光が収まったとき、そこには『彼』がいた。 ゼロヒーロー ~ルイズはいかにしてゼロマスターと呼ばれるに至ったか 白い肌に緑色の髪、白いズボンに緑の靴、そして白い弓に緑のジャケット。 見事なまでに白と緑のツートン・カラーで染められたその使い魔は、人の姿こそしていたが背は小柄なルイズの半分しかなかった。 ルイズが爆発を起こさずに召喚を成功させた。驚きで呆然としていた観客は、我に返ると一瞬にしてざわめきに満ちあふれた。 だがそのうちの何割かは、相変わらずルイズをゼロと見たままの悪意の籠もったものであった。 ――いくら召喚ができないからって、子供を誘拐してくるなんてひどいゼロよね。 あまりにも失礼な物言いに、サモン・サーヴァントを成功させた達成感も吹き飛んで沸騰するルイズ。 事実、それは幾度も苦労してはっきりと成果を上げた学友に対する言葉としては、あきらかに貴族として相応しいものではない。 教師として監督役を担っていたコルベールが、言い過ぎた生徒を叱責しようと口を開く。 さきほどまでは、召喚中のルイズが雑音を意に介さない程に集中していたため黙っていたが、すでに結果は出たあとだ。 失敗こそあれ、最終的には見事に使い魔の召喚を成し遂げた生徒を賞賛こそすれ、中傷するというのは礼節以前の問題だろう。 「ちょっと、アンタ――」 「言い過ぎですよ、ミス――」 ルイズとコルベールが振り向いた瞬間であった。二人の間を、風切り音が通り抜けた。 「ぎゃっ!」 次いで悲鳴。今しがたルイズとコルベールが苦言をぶつけようとした金髪で見事な巻き髪の少女が、腰を抜かしてへたり込んでいる。 その視線の先には一本の矢。腕に深々と突き刺さり、傷口からはだくだくと血が流れている。それを見てさらに周囲から悲鳴が上がる。 「ああっ! マリコルヌがやられた!」 「……いや、今……誰か僕を突き飛ばs」 「どこから飛んできた矢だ!」 「……聞いてよ、ねえ、犯人はギーs」 「犯人はそこだ!」 混乱の中、びしっ! と一本の薔薇を突きつける学生が一人。 その指し示す先にいたのは、たった今ルイズが喚び出したばかりの使い魔の姿。 いつの間にか弓につがえた二の矢で弓弦を引き絞りつつ、油断無く彼を見つめる生徒たちを見返している。 「ゼロのルイズが喚び出した使い魔が!」 「いきなり暴れたぞ! やっぱりゼロはゼロだ!」 向けられた敵意に、慌てて戦闘態勢を取る生徒たち。周囲に、今にも魔法が飛び交いそうな一触即発の空気に満ちあふれる。 慌てたのはコルベールである。自分の油断から生徒に怪我を負わさせてしまった。 色めき立つ生徒たちに、落ち着くようにと声を張り上げ、いざとなればやむを得まい、と前に出、ルイズの使い魔に向けて杖を構える。 だが、もっと慌てたのはルイズであった。 せっかく喚び出した使い魔が、生徒を、貴族を傷つけた。 ――殺されちゃう! そう思った瞬間、ルイズは咄嗟に使い魔をかばうように前に出た。 両手を広げ、無数の杖から自分が喚び出した使い魔を背に守るように立ちはだかる。 「いけない! ミス・ヴァリエール!」 「え……?」 慌てたコルベールの声に、一瞬、きょとんとするルイズ。 まずいまずいまずい。 コルベールの脳裏に、一瞬後の最悪の光景がよぎる。 サモン・サーヴァントで喚び出された使い魔は、通常は契約を――コントラクト・サーヴァントを終えるまではおとなしくしている。 だがルイズの喚び出した使い魔は……ええと、なんと言ったか、ちょっと太めの生徒を矢で射抜くほど攻撃的になっていた。 さらに次の矢をつがえた状態の、そんな使い魔の前に急に飛び出したりしては、はずみで矢が放たれてしまってもおかしくはない。 最悪、背後から心の臓を射抜かれて絶命――と、そこまで考え、なんとか間に合えとばかりに彼が詠唱を始めた瞬間である。 「え……」 今度は、その使い魔が弓を構えたままルイズの前に出てきたのである。 つがえたままの矢の先は、もちろんルイズではなくコルベールの方を向いている。 詠唱を中断し、真剣な表情でルイズの前に立つ使い魔を油断無く観察する。 「守って……くれてるの?」 ルイズがかばおうとしたはずの使い魔が、逆に彼女を背にかばっている。 彼女よりも小さくて、あきらかにメイジでもないのに、弓一本と矢が数本で、この使い魔はルイズを守る気でいる。 驚いたことに、コントラクト・サーヴァントもしていないのに、だ。 「ミス・ヴァリエール! 使い魔にその弓を下ろすように言ってください!」 コルベールの指示で我に返る。そう、状況はあまり変わっていない。 言われたとおりに、慌てて目の前の使い魔に指示を出す。 「大丈夫よ! みんなは敵じゃないわ! その弓を下ろしても大丈夫なのよ!」 その言葉を聞いて、使い魔はちらりとルイズの方を振り向いた。こくりと頷いて、弓を下ろす。 その瞬間、張りつめていた空気がすっと和らいだ。足の力が抜けて思わずへたり込んだルイズが、背中から使い魔を抱きしめる。 「驚きましたね……コントラクト・サーヴァント前に主人を守ろうとする使い魔がいるとは」 撃たれた生徒の手当が無事に終わっていることを確認したコルベールが、ルイズとその使い魔を見て呟いた。 あの緑色の使い魔は、あきらかにルイズを守るために動いていた。 最初に射られた矢は――恐らく、自らの主人を侮辱されたことに腹を立てたのだろうと推測する。 怪我人が出てしまった以上、後処理に時間を取られることは確かだが、ともあれ、今しておかなければならない事を済ませる。 「ミス・ヴァリエール、そのままコントラクト・サーヴァントを済ませてしまいなさい」 「え……あ、はい」 言われて初めて気づいたかのように、こくりと頷くルイズ。 ルイズがへたり込んだ状態で、お互いの頭も丁度良い高さにある。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール――」 こうして、その緑色の使い魔は、正式にルイズの使い魔となったのである。 使い魔召喚の儀式により、二年生へと進級した生徒たちの興奮冷めやらぬ翌日のこと。 ルイズの使い魔は、突如として決闘を挑まれていた。 決闘場所はヴェストリの広場。午前の授業が終わった昼食後、一人の生徒が昨日のことで食って掛かってきたのだ。 不幸な事故のことは謝るから――とルイズも頑強に抵抗したが、周囲の生徒たちの悪ノリもあり、引き離されてしまったのである。 「昨日、危うくキミが怪我を負わせるところだった僕の一輪の花、香水のモンモランシーのために」 決闘を仕掛けてきた生徒、ギーシュの口上を黙って聞くルイズの使い魔。 携えた弓は、いつでも矢を放てるように。片手に矢こそないものの、臨戦態勢にあることはあきらかに見て取れた。 「そして彼女をかばい名誉の負傷を負った我が友、鼻紙のマリコルヌのために!」 「かぜっぴきでも鼻紙でもなくて風上だよっ! って、キミが突き飛ばs」 ギーシュの口上が終わった瞬間、周囲の歓声は最高潮に達した。 それを決闘の始まりの合図と判断したか、ルイズの使い魔は素早く矢をつがえ、ギーシュに向けてそれを放つ。 だが、ギーシュはそれを見透かしていたかのように手に持った薔薇を一振りする。 「矢が来るとわかっていれば、防ぐ手段はいくらでもあるんだ」 薔薇の花弁が一枚舞い、ギーシュの目の前で女戦士の姿を取る。 ギーシュによって『錬金』された青銅の女戦士は放たれた矢を受け止めると、ルイズの使い魔を目掛けて殴りかかった。 「言い忘れたが、僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従ってこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 殴りかかってくるワルキューレに対し、大きく飛び退いてさらに矢をつがえるルイズの使い魔。 こうして、決闘は始まった。 ルイズがやっとのことで決闘場であるヴェストリの広場に辿り着いたとき、目の前には傷だらけの自分の使い魔の姿があった。 少し離れた場所には、幾本もの矢が突き立ったギーシュのゴーレムが倒れ伏している。 にわかには信じられないことだが、この使い魔は弓一本でメイジの作り出したゴーレムを倒したのである。 いくらギーシュが魔法使いの中で最低ランクの『ドット』ランクだとしても、この使い魔にはそれと渡り合える実力があるのだ。 ほんの少しの優越感と、それ以上に使い魔の怪我を案じて、ルイズは使い魔の前に出て叫んだ。 「ギーシュ! あんたのゴーレムは倒したわ! こっちの怪我もひどいし! もう引き分けでいいでしょう!」 「やあゼロのルイズ。残念ながらそうはいかないんだ」 軽く嘯いて、もう一度手の中の薔薇を振るギーシュ。 すると、薔薇から散った一枚の花弁が、無傷の『ワルキューレ』となって広場に降臨する。 勝ち誇った表情で、ギーシュは堂々と絶望を宣告する。 「あいにくと、僕が作り出せるゴーレムは一体だけではないのだよ」 「そんな……!」 ゴーレム一体を倒すだけでこれだけボロボロにされたのである。 それがさらに一体――いや、ギーシュの持っている薔薇の花弁の数だけ作り出せるとしたら、どうやっても勝ち目はない。 もう、これ以上使い魔を傷つけさせるわけにはいかない――と、歯を食いしばってルイズが許しを請おうとした時である。 再び、使い魔はルイズの前に出た。 主人の誇りを守るべく、傷だらけの身体をおして前へ、前へ。 「ダメ……もうやめて!」 必死に手を伸ばし、自らの使い魔を止めようとするルイズ。その手が、急に熱を持った。 熱い――と叫びかけて、そうではないと気づく。彼女が伸ばしたその手から、使い魔に向けて魔力が流れているのだ。 ボロボロになりながら、一体の敵を打ち倒した使い魔。 そしてそこに、彼の主人が辿り着いた。間に合った、と言ってよい。 「これは……」 ルイズから流れた魔力が、敵を倒した経験を混じり合い、使い魔の肉体を急速に活性化させる。 負っていた傷はあっという間に消え去り、ややひ弱な印象があった小さな身体には、とにかく力に満ちあふれている。 「何だ……? 行け、ワルキューレ!」 なにやら異変を感じ取ったギーシュが、勝負を決めてしまおうとワルキューレに指令を下す。 ボロボロだった使い魔など、あと一撃も加えれば抵抗する気もなくすに違いないと。 だが次の瞬間、その表情が凍り付いた。 轟音――いや、それが矢の音だとすぐに気づけた者がどれだけいるだろう。 ルイズの使い魔が放った矢が、向かってくるワルキューレを貫き、そのままギーシュの背後の壁に突き刺さったのである。 「え……」 「嘘……」 ギーシュとルイズ、そして周囲を囲むギャラリーの呆然とする声。 青銅製のワルキューレが、たった一本の矢で貫かれただけで、胴体に大穴を空けて行動不能になったのである。 「わ……ワルキューレェェっ!」 一瞬でギーシュは恐慌状態に陥った。彼が操れるだけ全てのワルキューレが、彼を守る壁となったまま一斉に襲いかかる。 その数は――もう数える必要すらなかった。 いくつのゴーレムが並んでいたのだとしても、その全てがわずか一矢で貫かれ、大穴を空けて広場の石畳へと転がったのだから。 「……他にもあったわよね、フーケのこととか、……ワルドのこととか」 今もこうしてルイズの目の前に出、彼女を背に庇っているのは彼女の使い魔だ。 ルイズの半分しかなかった背は、彼女が見上げる必要があるほどに高く伸び、変わらず緑と白の出で立ちは、赤いマントで飾られている。 「それじゃ行きましょうか」 ルイズの言葉に頷いて、一歩前に進む使い魔。 その名を、ルイズはとびっきりの愛情を込めて呼ぶ。 「ジャレス……いいえ、ジャレットの方がいいかしら?」 どちらの名を呼んだ時も背中が嬉しそうだった。呼び方は特に気にしないらしい。 「それと――ボムノスケたち」 なんと、ルイズの後ろにはさらに三体の使い魔が控えていた。 どれも真っ赤な丸い胴体に手足と目がつき、王冠をかぶり、真っ白いヒゲと眉をつけた奇妙な姿をしている。 彼らは、ルイズが失敗したと思っていた、最初の三回の召喚で喚び出されていた使い魔である。 彼女がここに至るまでにいろいろ……本当に色々あって――とにかく、今は無事にこうしてここにいる。 目の前から、轟音が聞こえてきた。 敵は、アルビオン軍七万。 「それじゃ、いくわよみんな!」 返事はない。その代わりに数限りない爆音が、ルイズの約束された勝利を前祝いするかのように轟いていた。 これは後世にゼロヒーロー、あるいはゼロマスターと呼ばれる、一人の少女の物語である。